連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第43回 <怪獣ブーム50周年企画 PART-2> 『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』

大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン [Blu-ray]
『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン [Blu-ray]』
本郷功次郎,江波杏子,早川雄三,藤岡琢也,藤山浩二,夏木章,田中重雄
角川エンタテインメント
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●「怪獣ブーム」とは
 今から50年前の1966年1月2日、記念すべきウルトラシリーズの第1作目『ウルトラQ』が放送を開始した。『鉄腕アトム』や『鉄人28号』などのアニメを見ていた子供達は、一斉に怪獣の虜となった。すでにゴジラ映画は6本を数え、前年の1965年にはガメラがデビューした。『ウルトラQ』終了後、これに拍車を掛けたのが同時期に始まった『ウルトラマン』と『マグマ大使』。見た事もない巨人が大怪獣を退治していく雄姿に、日本中の子供達のパッションがマックスで弾けた。
 これに触発された東映も『キャプテンウルトラ』『ジャイアントロボ』『仮面の忍者赤影』と次々に怪獣の登場する番組を制作。大映はガメラのシリーズ化に併せて『大魔神』を発表し、日活と松竹も大手の意地を見せて参戦した。そして少年誌はこぞって怪獣特集記事を組み、怪獣関連の出版物や玩具が記録的セールスを計上した。これは「怪獣ブーム」と呼ばれる社会現象となり、『ウルトラセブン』が終了する1968年まで続いた。
 ちなみに『帰ってきたウルトラマン』『仮面ライダー』が始まる1971年から1974年にかけて再ブームを起こすが、これは「第二次怪獣ブーム」(「変身ブーム」ともいう)と呼ばれ、最初のブームは「第一次怪獣ブーム」として厳密に区別されている。


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『大怪獣決闘 ガメラ対バルゴン』
1966年4月17日公開(大映・101分)
監督/田中重雄
特殊撮影監督/湯浅憲明
脚本/高橋二三
出演/本郷功次郎、江波杏子、藤山浩二、藤岡琢也ほか

 大映がゴジラに対抗して輩出したガメラ。その誕生の発端には諸説あり、大映の永田社長が飛行機の窓から空に浮かぶ大きな亀を見て閃いたという説が最も有名。だが斎藤米三郎プロデューサーは、新宿のキャバレーで長崎県出身のホステスから聞いた「長崎では海水浴している女性目掛けて寄って来るスケベな亀がいて、前まで来てクルクル回る」という話(それって出歯亀=覗きでは?)からヒントを得たと述懐している。

 まずは第1作『大怪獣ガメラ』(65年)の粗筋から。北極に原爆を積載した国籍不明機(たぶんソ連)が墜落し、氷の中に数千年間封じ込められていた怪獣ガメラが甦る。ガメラには自衛隊のいかなる兵器も通用しない。亀だから引っくり返したり(笑)と、あらゆる手を打ったがガメラは死なない。そこで人類はガメラをロケットに閉じ込めて火星へ飛ばしてしまう。『ガメラ対バルゴン』は、その後日談から始まる。

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公開時のパンフレット「大映グラフ」。筆者私物。

 ロケットに都合よく隕石が衝突し、ガメラは脱出して地球に帰還。火や電気を食べるガメラは、まず1963年に竣工されたばかりの黒部ダム発電所を襲い、ついでに体当たりでダムに穴を開け決壊させる。ダム建造の陰には殉職者171名......やめてやって、ガメラ!

 一方ニューギニアでは、圭介(本郷功次郎)、小野寺(いつでも悪役・藤山浩二)、川尻の3人が、圭介の兄が戦時中に洞窟で見つけて隠した推定2億円のオパールを探り当てていた(ニューギニアにオパールはないけど)。だが小野寺はオパールを独り占めしようと手榴弾で洞窟を落盤させる。圭介は原住民に救助され、日本語が話せるカレン(江波杏子)が「あれはオパールではありません。何千何万という人が死にます!」と、圭介と共に日本へ向かう。その頃日本に帰港した船の中で、小野寺が水虫治療に使っていた赤外線ランプがオパールに照射されると、中からトカゲが誕生する。オパールと思い込んでいた物は怪獣バルゴンの卵だったのだ。赤外線の影響で巨大化したバルゴンが「しゃしゃ~! ごわ~」と鳴いて神戸に上陸する。縦にではなく横に開く瞼に真ん丸目玉が、とっても可愛い。

 バルゴンは、神戸タワーをカメレオンのような舌で倒壊させる。この舌パンチ、パンフレットには「ファイティング原田(当時のボクシング世界チャンピオン)の20万倍」とある。バルゴンは、その舌の先から冷凍液を噴射して大阪の町を氷漬けにしてしまう。住みやすい環境に変えているのだが、そもそもバルゴンは赤道直下の熱帯ジャングルに住む爬虫類。なぜ冷凍液を備えているのか、なぜわざわざ寒くするのか理解に苦しむ。

 バルゴンは自衛隊の戦車や戦闘機を凍結させ無力化し、背中のトゲから7色の虹光線を発射。虹が大阪上空にアーチを描きミサイル基地に到達すると、基地は大爆発を起こして全滅! ここで高熱エネルギーを好むガメラが、この虹光線を求めてついに飛来。氷漬けのモノクロ世界に映える町のネオンやガメラの炎。氷の城と化した大阪城を挟んで対峙する2大怪獣の完璧すぎる構図は、劇場の横長スクリーンにおいて最大限に発揮する。だが、寒さに弱いガメラはバルゴンの冷凍液でカチンコチンに凍らされ、角でひょいっとひっくり返される。バルゴンも「亀なら引っくり返せ」と思ったのだ(笑)。

 人類が倒せなかったガメラに勝ったバルゴンを一体どうやって退治するのか。カレンはバッグの中から先祖代々伝わる5000カラットのダイヤを出す(時価200億円!)。世界最大のダイヤ原石は1905年に発見された「カリナン」の3106カラットだが、これは原石ではなく、ちゃんとブリリアントカットされている。カレンは、バルゴンが水に浸かると死んでしまう事と、好物がダイヤの光である事を話す。ここで先ほどから一心不乱にダイヤを見つめている中年の女性自衛官が「こんなダイヤがアナタの部落にはたくさんあるのですか?」と興奮し、司令官に「キミイ!」と叱責される一幕も(笑)。

 バルゴンは赤外線で異常発育した特異体質とわかり、自衛隊はダイヤに赤外線を照射して、「ほれほれ」とバルゴンに見せつけながら琵琶湖の湖畔までおびき寄せる。だがここで、5000カラットのダイヤを嗅ぎつけた欲深い小野寺がモータボートで現れ、ダイヤを強奪して逃げる。するとバルゴンの舌がニューッと伸びてきて、小野寺をダイヤごとゴックンと飲み込んでしまう。アホか、小野寺。

 やがて自衛隊が万策尽きた時、大阪で凍結していたガメラがようやく解凍しリベンジにやって来る。タイトルの「大怪獣決闘」に相応しい互いの闘争本能の限りを尽くした死闘が、日本最大の湖で繰り広げられる!

 ガメラと言えば第1作でも子供を助け、「子供の味方」というイメージ(第3作以降は全てそう)で定着しているが、この2作目に関しては永田社長の「大人向けで」という命の下、シリーズ唯一子供が1人も出ない怪獣映画となった。余談だが、パンフレットに「バルゴンの嫌いな物はニンジン、タマネギ」と書いてある。人間の子供か(笑)。そしてガメラに関してはキッパリ「ガメラは亀の仲間だから甲殻類です」。甲殻類ってカニやエビだぞ。このアバウトさも、昭和怪獣映画の魅力なのだ。

(写真・文/天野ミチヒロ)

※劇中の台詞はオリジナルのまま掲載しております。

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公開時の「週刊 少年キング」1966年5月1日号。筆者私物。

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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