連載
怪獣酋長・天野ミチヒロの「幻の映画を観た!怪獣怪人大集合」

第46回 『ゲロゾイド』

『ゲロゾイド』
原題『EVIL CLUTCH』
1988年・イタリア・86分
監督・脚本/アンドレアス・マーフォリ
出演/コラリーナ・タッソーニ、ディエゴ・リボン、ルチアーノ・クロバートほか

 イタリア製ゾンビ映画といえば、眼球串刺しが有名な『サンゲリア』(79年)といったルチオ・フルチ監督作品などが頂点に立つ一方、最底辺には夥しい数のゴミ作品が廃棄(笑)されている。今回はその中の1本、『EVIL CLUTCH』(魔手)という原題がどこでどうなったのか、『ゲロゾイド』なる汚いタイトルの作品を拾い上げてみよう。

 ビデオジャケットにある解説には「ヨーロッパ中に大センセーションを巻き起こし、評論家はもとよりホラーファンからも轟々たる罵声と歓声を浴びたいわくつきのグロ・ムービー」とあるが、もちろん大センセーションなど巻き起こっていない(笑)。

 また、この作品に対してゾンビ映画の第一人者・伊藤美和氏は、「何が起きているのかサッパリわからない」と著書『ゾンビ映画大事典』の中で端的に評した。さあ、困った。しかし私の役目は、このような作品を世に伝えることだ。トライしてみよう。

 アルプス山中にある廃屋。ツナギを着た青年が、中にいた若い女に抱き付く。すると、女の股間からカギ爪の生えた3本指の毛深い腕がニュッと出てきて(小学生の発想)、青年の股間を千切り取って殺す。女を見ると、目の周りにクマを作り牙が生えていて「イッヒヒヒ」と笑っている。 数日後、アメリカ人観光客のシンディとトニーがアルプスにやって来ると、バイクに乗った自称・怪奇小説家の中年男から「この土地では数百年前に村人が邪教の儀式で魔者を呼び出し、今も村では悪魔に生贄を捧げている」と警告を受ける。

 だが聞く耳持たない2人は、キャンプしようと森に入っていく。するとあの女が現れ、冒頭の廃屋へ2人を連れて行く。シンディが席を外した隙に、女はトニーに薬物を勧める。手渡す際、少量の粉末が泥水みたいな液体の入ったバケツの中にこぼれ落ちる。ゴボゴボ鳴り出した液面からピュッと液体が跳ね上がりトニーの顔に付着する(んん?)。

 日も暮れ、散歩から戻ったシンディは庭にある大石の上に腰掛けるが、ふと手を着いた部分に違和感を覚える。そこへトニーが女と来て「たぶん、何かの"いわれ"だ。チンプンカンプンだ」。画面が暗くて、何を指しているのか観ている方もチンプンカンプンだ。トニーはキャンプ用ガスコンロでその部分を炙ってみる(するか?)。何か紅白の物体が埋め込まれていて、そこが燃え出し赤い液体が湧き出る。3人は立ち上がり、無言でその場を去る(んん?)。ちなみにこの件は後半には全く繋がらず、この時点で終わり(汗)。

 さてトニーは粘液を浴びてから気分が悪くなり寝込んでしまう。突然、部屋の鳩時計の針がグルグルと回り出す。トニーは知らない言語で呪文を唱えている。すると鳩時計の扉が開き、中からは鳩ではなく人食い人種の干し首みたいな小さな頭が現れ、「キィ~」と奇声を発して口からピュ~ッと血を吐く。何、これ?

 驚いて2人が外へ出ると、いきなりゾンビが襲撃! 冒頭で殺されたツナギの青年だ。2人はゾンビを馬車の車輪に鎖で縛り付けて逃げる。で、またもシンディのいない隙に女が現れ「欲望を満たしてあげる」とトニーを誘惑し木の下で始める。すると木の根っ子がダイオウイカの足のようにクネクネ動き出しトニーを襲う。そこへ小説家が登場し、斧で根っ子を切断してトニーを救出。女は「パパ、パパ、ついに恨みを晴らす時が来たわ」と股間の3本指をカシカシ開閉しながら語り出す。ようやく女の正体が明らかに!? だが小説家は最後まで話を聞かず、股間の腕を斧でスパッ! 逆上した女は小説家を怪力で殺し、なぜか両目が出目金のように飛び出ている。以降、女の過去は最後まで一切語られずに終わる(唖然)。

 その頃、ゾンビは嘔吐しながら必死に鎖を解いていた。......あ、これが「ゲロゾイド」か? ゲロゾイドは岩石でトニーの両手を潰して切断。「アハハハ~」と笑いながら頭も「ブチッ!」と、もぎ取ってしまう。トニーの頭部を右手に掲げたゲロゾイドは、切断面から垂れ下がる食道や首の皮を口に含み、滴る血をペロペロ舐めている。

 さて、ついでに小説家もゾンビとなり、ゲロゾイドとタッグを組んでシンディを廃屋に追い詰める。ゲロゾイドはトニーの首を壁の燭台にグサッと突き刺してディスプレイ。シンディはホラー映画のお約束・チェーンソーを見つけると、斧を持って迫る小説家ゾンビのドテッ腹をズタズタに! そうこうしているうちに夜が明け、シンディは迫るゲロゾイドに「テクマクマヤコン」とコンパクトミラーで朝日を反射。陽光を当てられたゲロゾイドは苦しみ出して死ぬ(弱!)。やがてトニーの後頭部が「パン!」と破裂し、頭からドピュ~ッと血が噴き出す。泣きながら森の中を行くシンディの行く手には女が!

 女は村娘に憑依した悪魔と推測できるが、バケツの液体は何? トニーが炙った石は何? 鳩時計は? 本当だ、サッパリわからん(笑)。

 自主映画でイタリア映画界に認められたマルフォーリ監督は、サム・ライミの『死霊のはらわた』(81年)で使われたシェイキーカム(カメラマンが移動する際のブレや振動を安定させる撮影技法ステディカムの簡易版装置)によるカメラワークを人物の移動シーンに多用した。だが、そこは半分以上カットできるほど無駄に長かった。ちなみに配給は『悪魔の毒々モンスター』のトロマ。なるほど、トロマが好きそうな内容だった。

(文/天野ミチヒロ)

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物(UMA)案内』(笠倉出版)など。
世界の不思議やびっくりニュースを配信するWEBサイト『TOCANA(トカナ)』で封印映画コラムを連載中!

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