第6回 『大蛇王 HONGKONG崩壊の序曲』
- 『大蛇王 HONGKONG崩壊の序曲』
原題『KING OF SNAKE』
1986年製作、香港・台湾、89分
監督/ヒュー・ユールン
脚本/ウー・ウェンリャン
出演/リー・シュウシェン(ダニー・リー)、スー・ヒュイルンほか
※VHS廃盤
今年の干支はヘビということで、大蛇が出てくる映画を紹介しよう。大蛇の映画といえば、ブレイク直前のジェニファー・ロペス主演『アナコンダ』('97年)が代表的で、以降コブラ、ニシキヘビ、ボアと、ヘビの種類だけを変えた類似作品が続いている。それらはCGIとアニマトロニクス(コンピューター制御された精巧な動物ロボット)で創造されたリアルな大蛇が、気持ちいいほど人間をゴックンと呑み込んでいた。だが、そんな技術のカケラもなかった80年代の台湾で、映画史上最大の大蛇が登場する作品が製作されていた。
ビデオジャケットに描かれた高層ビルに巻きつく100メートル以上はありそうな大蛇。戦闘機も飛んでいる。巨大生物、高層ビル、戦闘機......これって「ヘビ版キングコング」!? 邦題も「HONGKONG(香港の英名)」と韻を踏んでいる。しかし劇中に香港はいっさい出てこず、ロケ地は台湾。アジア架空国の高地で暮らす少女ティンティン(推定年齢10歳)は、川で捕まえた黒いヘビを親に内緒で飼うことに。まずはお部屋でヘビの命名タイム。「クロちゃん、花ちゃん、チャーリー......どれも平凡ね。決めた! モスラーよ」。非凡すぎるよ、ティンティン! 「いいでしょ?」にヘビ「うんうん」と首を縦に。東宝関係者なら「ダメダメ」と首を横に振るでしょうが。
その頃ティンティン宅の近郊に建つ施設では、核実験の影響による食糧危機対策のため、生物の成長促進プログラムが開発されていた。研究者の一人は『実録ブルース・リーの死』『北京原人の逆襲』『八仙飯店之人肉饅頭』など、香港の人気B級作品でお馴染みのダニー・リー! だが彼は、研究が巨大生物兵器の開発という軍事目的であることを知り離脱する。ダニー抜きで行われる動物実験で、10センチのカエルが数秒で「ゲコゲコ」と50センチに大型化。実験は成功したが、いきなりテロリスト・暗黒団が研究所を襲撃! 流れる音楽は、たぶん勝手に『謎の円盤UFO』('70年、英国のTVドラマ)。資料と実験装置、そして大ガエルを抱えて逃げる研究員たち。そのドサクサの中、原っぱに転がっていた装置をティンティンが持ち帰り、それにモスラーを入れると5メートルに巨大化! 「どうしてそんなに大きくなったの?」というティンティンに「知らないよ」と首を振るモスラー(笑)。
でも細かいことは気にせず、豊かな自然の中でモスラーと遊ぶティンティン。そこへ児童コーラスが流れる。「ラララララ~ラ~ラ~、来てごらん、青空に白い雲、きれいな海。悩みが嘘のよう。ラララララ~ラ~ラ~、幸せにこんにちは」。この牧歌的な歌に乗って、少女が実物大の大蛇の作り物と戯れる図はかなりシュールで、観ている方も「ラララ~♪」。
さて「装置を出せ!」とティンティンに詰め寄る暗黒団は、電流を流すとさらに千倍になることを知らずに、邪魔なモスラーを電流攻撃。するとモスラーは全長100メートル位に巨大化! 首の上にティンティンを乗せたモスラーは、誰が見ても『ネバーエンディング・ストーリー』。だが結局ティンティンは暗黒団に拉致され、それをモスラーは追撃する。まるで『モスラ』('61年、東宝)で、悪徳興行師に捕まった双子の妖精(ザ・ピーナッツ)を探すモスラのごとし......あ、だからモスラーか。商標を意識して「ラー」としたの?
モスラーは山を降り、鉄橋に迫る。そうとも知らず鉄橋に近づく列車。デデンデンデン、デデンデンデン♪ おっと、なぜかBGMは『ターミネーター』(汗)。ティンティンに会いたい一心のモスラーなのだが、鉄橋、列車、ダム、石油基地と、彼が通過しただけですべてが破壊され、屍の山......。ここ、特撮は完全に日本の怪獣映画の雰囲気で、見応えがある。そりゃそうだ。実は深作欣二監督『里見八犬伝』('83年)の特撮スタッフが、国境を越えてバイトしていたのだ。モスラーは、主演・薬師丸ひろ子に巻きついていた大蛇だ。
ラスト、ついにモスラーはティンティンが軟禁されている高層ビルを発見し、グルグルとビルに巻きつき始める。ティンティンは警察に救出され、空軍はモスラーにミサイル攻撃開始! やがて力尽き、ついにビルから落下する可哀そうなモスラー。ここはキングコングへのオマージュだ。モスラーの亡き骸に駆けより泣きじゃくるティンティン......ん、そういえばカエルは? 続編は、落雷で50メートルに巨大化したカエルが、背中に児雷也という少年を乗せて暴れる『大蛙王 HONGKONG崩壊の終曲』(無い無い)。