第2回 『グルメホラー 血まみれ海岸人喰いクラブ 地獄のシオマネキ カニ味噌のしたたり』
- 『グルメホラー 血まみれ海岸人喰いクラブ 地獄のシオマネキ カニ味噌のしたたり』
原題『GIANT CLAWS』『ISLAND CLAWS』
アメリカ・90分
監督/ハーナン・カーデナス
脚本/ジャック・コーデン、リコウ・ブローニング
出演/ロバート・ランシング、バリー・ネルソン、スティーブ・ハンクスほか
※VHS廃盤
原題は『GIANT CLAWS』(巨大なハサミ)とシンプルなのだが、欲張りすぎの長い邦題にそそられる逸品。ビデオジャケットの裏に書いてある解説を読むと「ついにそれは現れた! 通常の数百倍はあろうかという美味そうな巨大人喰い蟹!! 喰われるか!? 喰い倒れるか!? かつてない興奮と共に、戦慄の空腹を満たすグルメホラーがやって来た!!」。さらに「一匹一匹オーディションされたプロのカニ俳優連のキメ細かな演技(ウソこけ)。5トンを超えるコンピューター制御のカニを作り出したのは、『キングコング』『ジョーズ』を手掛けたグレン・ロビンソン」だそうだ。確かにグレン・ロビンソンは、1976年版『キングコング』で視覚効果部門のアカデミー賞を受賞しているが......。
たぶんフロリダあたりのある島で、食糧危機対策としてカニの成長を速める研究が行われていた。だが近くの原発で事故が発生。即座に隠蔽を謀る原発代表は、カニ研究所を取材するジャーナリスト・ジャン嬢の父親だった。そして、その恋人である研究所員ピートの両親は、かつて飲酒運転をする原発代表の車に同乗して事故で死亡。さらにハイチから亡命者が大挙して島に密入国......といったポリティカルな背景は、その後カニが出てきてからはほとんど生かされず、あとの展開はとにかくカニづくし。
まずは原発事故の影響でカニが異常繁殖し、次々と島民を襲う。最初の犠牲者は、森に廃棄されたバスの中で暮らす男。車内に侵入してきたカニの大群を、「ひ~」とわめきながら楽器のバンジョーで潰しまくる男。嗚呼、オーディションに受かったカニさん達が......。男は誤ってランプを倒し、バスごと丸焼けに(カニも)。そうこうするうちに数日後、今度はカニの親玉が出現。突然民家の窓ガラスが破壊されたかと思うと、「ごあ~!」という咆哮とともに天井を突き破ってきたのは、電信柱のような巨大カニ脚! カニの親玉は「ごあ~! ごあ~!」と大暴れし、家屋は全壊。この時点で、巨大ガニはまだ脚だけしか見せない。この出し惜しみの演出が、怪獣映画の常套手段なのだ。
その頃、森でハイチ人狩りをしていた島民達、何の成果も上がらず「明日にしよう。ビールでも飲もうぜ」とノンキに居酒屋へと向かう。すると店にはハイチ人らがいて、巨大ガニに襲われ重傷を負ったハイチ人少女を居酒屋のオヤジが応急手当てしていた。この居酒屋のオヤジ(ロバート・ランシング)が主人公で、『巨大蟻の帝国』('77)や『ザ・ネスト』('88)でもアリやゴキブリと戦っているソノ手の役者さん。さて、ここで一触即発と思いきや、少女を病院に運ぶため「オラの船を貸そう」とハイチ人狩りのリーダー格。
そんなイイ感じのムードの中、皆が店の外に出た途端「ごあ~!」。いつの間に来てたんだか、カニの親玉がついに全容を現す。それは<かに道楽>看板の2倍はあり、もちろんCGなんてない時代。脚も含めて10メートルはある実物大の作り物が、ドーンと置いてあるのだ。これがコンピューター制御のカニか?......だが、一向に歩く気配のないカニ。その周囲を大げさにワーワー逃げ惑う人々。それでも出る鈍すぎる死傷者。1人の若者がスローモーな動きの巨大なハサミに捕まり死亡。「ヤロー!」と怒りのピート、カニの甲羅に登り、渾身の力を込めて木棒で目を突く。と、なぜか目を潰されただけで死ぬカニ。気付けばカニ、最初にいた所から一歩も動いていない。しかもカニはシオマネキではなかった。そして物語の重要人物だったはずの原発代表は2度と出てこなかった。
この作品、1988年のビデオ発売時期に「日本一長いタイトルの映画」(現在は別の作品が更新)として『タモリ倶楽部』で紹介され、ちょっとだけ話題になったものだ。当時私は番組を観ていたが、配給会社の江戸木純(現・映画評論家)らが、東京新宿の<かに道楽>でカニ料理を食しながら意見を出し合い、題名を決めたような記憶がある。江戸木純とは、女幽霊のトップレスダンスを延々と見せるという、最低さがウリの『死霊の盆踊り』や、やはり踊り狂うインド映画『ムトゥ 踊るマハラジャ』など、国際映画祭で誰も見向きもしなかった作品にセンス抜群の邦題を付け人気作にした、映画界屈指の功労者である。彼は当初、『地獄のカニ道楽』と付けるつもりだったというが、それも捨て難い!