第4回 『クローン(複製)人間ブルース・リー 怒りのスリー・ドラゴン』
- 『クローン(複製)人間ブルース・リー 怒りのスリー・ドラゴン』
原題『神威三猛龍』『THE CLONES OF BLUCE LEE』1977年製作・香港 監督/ジョセフ・コン脚本/不明出演/ブルース・リ、ブルース・ライ、ドラゴン・リー、ヤン・スエ、ジョン・ベンほか
※VHS廃盤
ブルース・リーが急逝した'73年以降、本家不在の需要と供給か、大勢のソックリさんが無駄に誕生した。この作品は、そんなニセ・ブルース・リー映画の集大成だ。製作は'80年代に『レディ忍者 セクシー武芸帖』『アグネス・チャンの香港大怪談 ひなげしのキョンシー』など、通常の映画ファンなら見向きもしない怪作を連発したフィルマーク社だが、'96年の社屋火災によるフィルム原版の大量焼失で、ほとんどの作品がDVD化困難。かつ権利関係も不透明なため、かつて創映新社から発売されていた日本盤ビデオは貴重だ。
ある日、ブルース・リーが心臓発作で死亡する。テレビ報道で流れる、棺桶に横たわる死に顔などリー本物映像の数々。記者会見をする生前のリーは『麒麟掌』の1コマだ。ビデオジャケットに書いてある「ブルース・リー特別出演」は、どうやらこれのようだ。ここで英国秘密情報部SBI(そんなの存在しない)香港支部は、ルーカス教授(『ドラゴンへの道』で、リーに往復ビンタ食らわした地上げ屋ボス役のジョン・ベン)なる怪しい人物に、ブルース・リーの遺体からクローンを3体作るように依頼。現実のクローンは赤ん坊から始まるのだが、たった1日で完成するリーの成人クローン3体。
ジャケット写真向かって右がクローン1号のブルース・ワン(ドラゴン・リー)。角度によってはなんとなく似ているがマッチョすぎ。ジャケット左が2号ブルース・ツー(『ブルース・リの復讐』なんて作品で主演のブルース・リ)で、体格は本家に近いが動きはジャッキー・チェン。ジャケット中央が3号ブルース・スリー(ブルース・ライ)だが、もはや別人。こいつらが様々なパターンのリー・コスプレに扮装し、「親指で鼻こすり」「手招き」「ステップ」といった定番のリー動作で「アチョ~」と任務を遂行していくのだ。
だが与えられた任務は、金塊や麻薬を密売する悪者たちを消すこと。なぜ英国政府がブルース・リーのクローンで暗殺を......(考えるな、感じるんだ)。中でも、クレージーキャッツのハナ肇を下膨れにした感じのマッドな博士が作った青銅兵士軍団との戦いはキテレツを極めた。白いブリーフパンツ一丁で金粉を塗りたくっただけの青銅人間(どう見ても金粉ショー)は、いくら殴っても蹴っても「キン、キン」と金属音を発し、まったく技が効かない。劣勢のクローンだが、偶然発見した毒草を青銅人間の口の中へ放り込むと、草をムシャムシャ食べて全員死亡(もう何が何だか)。博士は2号「怒りの鉄拳」で始末。
さて、任務は無事に成功を収めたが、教授に一言礼を述べただけで、報酬をビタ一文支払わないケチンボSBI。ここで物語は急展開を迎える。激怒した教授は「3人のクローンを死ぬまで戦わせ一番強い奴を王とし、私が王を支配するのだ」と発狂。別に友情はないらしく、ヤル気マンマンの3人。ここに「3大ニセ・ブルース・リー 最強(モノマネ)決定戦」の火蓋が切られた。が、教授の暴走に付いていけない女助手たちの機転で、戦いを止めた3人は反乱を開始。片方しかない変なヌンチャクをブン回す1号は、強敵ヤン・スエ(『燃えよドラゴン』『Gメン75』香港編でマニアには常識のマッチョマン)を葬る。2号は最強キャラ設定のカンフーとラストバトル。激闘が続き劣勢の2号、猿拳を繰り出し、ついでにアチョーならぬカンチョーで形勢逆転し勝利! 見せ場の少ない3号は、廊下に張り巡らされた殺人光線に触れて死ぬ(泣)。教授は駈けつけたSBIに連行されて完。
そろそろ年末の重賞競馬・有馬記念が近い季節となった。'10年の暮れ、私は出走表に掲載された「オウケンブルースリ」という馬名に目が止まった。「オーケンさん(大槻ケンヂ)、いつ馬主に?」。違った。馬主は、ブルース・リー・マニアが高じて桜拳(おうけん)塾という空手道場まで開いた実業家だった。そして日本の競馬では「馬名は9文字以内」という規則があるため、「ー」が入らなかったワケだ。「馬主さん、それじゃソックリさんでっせ」と指摘してくれるカンフー映画オタも周囲にはいなかったのであろう。ちなみに、リの有馬記念レース結果は、8番人気で11着に沈んだ。この作品は、クローニングに対する人類への警鐘......なんてテーマは微塵も感じられない怪作として、後世語り継がれていくことだろう。ニセ・ブルース・リー・ファンの間だけで。