第5回 『ハイパー・ウォーズ 帝国の逆上』
- 『ハイパー・ウォーズ 帝国の逆上』 原題『HYPERSPACE EpisodeⅣ THE LAST RESORT』 1984年製作、アメリカ 脚本・監督/トッド・デュアハム 出演/アラン・マークス、ポーラ・パウンズストーン、クリス・エリオット、R.C.ナンシーほか※VHS廃盤
最近、『スター・ウォーズ』(以後SW)のパロディ作品が続々とDVD化され、ファンの間で話題に上っている。『ロボットチキン』('05・米)は、玩具やフィギュアをコマ撮りしたストップモーションアニメと、粘土を使ったクレイアニメでSWの世界を再現。本編にはないシチュエーションが笑いを誘い、本人が声優を務めるジョージ・ルーカスのフィギュアまで登場! そのルーカスが最もオキニーという、幻のSWパロディ『ハードウェア・ウォーズ』('78年・米)もついに解禁! Xウィング、タイファイターに見立てたアイロンやトースターなどの家電が宇宙空間で戦うシーンは、バカ映像の極みと言ってよい。
他にルーカス公認のSWパロディといえば、パロディの名手メル・ブルックス監督『スペースボール』('87年・米)が有名だ。オッパイのある女性型C‐3POや、「私は君の父親......の甥の従兄のルームメイトだ」とルークに告白するダース・ベイダーもどきが登場する。逆に、ルーカスが眉をひそめたと噂される『親指ウォーズ』('99年・米)は、人の親指に各キャラの扮装を施して芝居させ、ダース・ベイダーもどきがルークに「私はオマエのママだ」と言っていた。
またパロディというより、パチモンの中にはルーカスが観たら激怒必至のZ級作品が存在する。『レイダース 失われたアーク』のテーマ曲が勝手に流れ、本物のSWフィルムを勝手に投影したスクリーンの前でトルコ人俳優が演技をするという、恐れ知らずのターキッシュSW『世界を救った男』('82年)はインパクト絶大だ。だがルーカスが呆れ果て、無言でフィルムごと焼き捨てると思われるのが『ハイパー・ウォーズ 帝国の逆上』だ。
「宇宙では何が起こるかわからない」というト書と共に「ジャン!」とファンファーレが鳴りタイトルイン。そこには「EpisodeⅣ」と書いてあるが、もちろんほかのエピソードは存在しない。そして壮大なジョン・ウィリアムズ風マーチが流れる中、画面の奥へ文字が流れていくSW風オープニング。帝国軍から重要な送信機の設計図を盗んだ反乱軍のセリナ姫を、ジャワ族そっくりの小人宇宙人を部下に従えたダーク・レイダーが追跡する。だが彼らの宇宙船は航路を誤り地球に迷い込み、夜釣りを楽しむジジイに光線を浴びせる。しかし何ともないジジイ。このシーンの意味がわからないまま、SWの100分の1の予算で作られた宇宙船が「ゴゴゴゴ」とSW風アングルで飛んで行く。
で、このダーク・レイダーが失笑もの。黒い上下服に黒いマントを羽織ったまではよいのだが、目の部分にはロボコップのような長方形の穴、口の部分にはダッチワイフのような丸い穴が開いた円筒状の黒い被り物(おそらくゴミ箱)を被っているのだ。このゴミ箱野郎は、町で見つけたカレンという娘をセリナ姫と勘違いする。だがカレンはキャリー・フィッシャー(レイア姫)とは大きくかけ離れたルックスの持ち主で、モジャモジャ頭のジャガイモ顔、ダブダブの作業ズボンを穿いた色気ゼロの女(走り方も変)。
さらにレイダーは、業務用掃除機も設計図が隠してあるロボット(R2-D2のことね)と勘違いして解体。ルークに該当する大学生マックスを宇宙船に拉致し「脳排機」という恐ろしい名前のマシンでパーにするはと傍若無人の大暴れ。ここでついに米軍が宇宙船を総攻撃! だが、宇宙船のレーザー砲の前に米軍はまったく歯が立たず敗退。マックスとカレンもレイダーに殺されかけたその時、「ハハハハ」と唐突に現れたのは、帝国軍に恐れられるキャプテン・スターファイター(スーパーマンもどき)に変身している、冒頭で光線を浴びたジジイ。光線で超人化したってこと? 説明がないのでサッパリわからんが、とにかくスターファイターはレイダーを撃ち殺し「パン!」と一本締めし、狂ったように大爆笑。ジャワの操縦する宇宙船は宇宙の彼方へと飛び去り、マーチが鳴り響いてエンド。
この作品、監督も役者も誰一人として聞いたことのない者ばかりだが、最もキャリアアップしたのは音楽担当のドン・デイヴィスだった。のちに彼は『マトリックス』('99)、『ジュラシック・パークⅢ』('01)などメジャー作品の音楽でビッグになる。どうりで音楽だけは、稚拙な画面にそぐわずまともに聞こえていたような気がする。