江戸の庶民が食卓に生かした三つの知恵

イラスト:齊藤俊行
昔の人は、野菜をどう調理して食べていたのでしょう? 日本の伝統食や食文化に詳しい食品学者・松本栄文(まつもと・さかふみ)さんにうかがいました。食べ方に庶民の知恵が息づいていることに驚かされます。

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■食卓に生かした三つの知恵

江戸時代の庶民の食生活には、大きく三つの知恵が生かされていたと、松本さんは言います。
「一つ目は、簡単に自家栽培できる野菜を食べていたことです。庶民の大半はその日暮らしの人々ばかり。天秤(てんびん)をかついで売りにくる野菜も買いましたが、家の敷地や路地で育つ野菜が便利だったんです。時には物々交換をしながら、その日
の食材を手に入れていました」
野菜をきざんで使うのも、調理の工夫だそうです。細かくするほど、大勢で食べられるからです。
「二つ目の知恵は、なければ代わりを探すこと。米に代えて豆腐を粥(かゆ)に見立てたり、海産物が乏しい内陸地方では、かつお節の代わりに鶏肉、昆布の代わりにゴボウでだしをとりました。昔の人は、どんな食材からだしがとれるか、知っていたんです。私たちは、コマツナにうまみがあるなんて思いもしませんが、じつはコマツナはアミノ酸が豊富で、うまみのある野菜。その調理に、やたらとだしを足す必要はないんです」
三つ目の知恵は、旅から生まれました。移動に時間がかかった江戸時代、旅人が道中食あたりを起こさないようにと、旅籠(はたご)の朝食には梅干しがついたそうです。
「寺の門前で七味トウガラシが売られたのは、トウガラシを携帯して食べ物にふり、体を温めて病気を予防してほしいという願いからです。ウリやナスなど体を冷やす野菜には、体を温めるショウガを組み合わせるといった考え方も、昔から大事にされていたんですよ」
■『NHK趣味の園芸 やさいの時間』2015年8月号より

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