よみがえる伝説の酢豚

撮影:今清水隆宏
昭和30年代。本場の中国料理の追究のために発足し、日本の中国料理史に足跡を刻んだ研究会がありました。そこで誕生したのが、この酢豚。その味を継承する料理人が伝説の味を再現します。

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■探究心と情熱が生んだ、聖堂式酢豚

中国では糖醋肉(タンツゥロウ)と呼ばれる酢豚。全土でその地方特有の産物や調味料を使った酢豚がつくられているそうです。
ところが、日本でも、昭和30〜40年代、戦後の混乱も落ちつき、本格的な中国料理の世界が花開こうという時代に、究極の酢豚が誕生していたのです。それが“聖堂式酢豚”。“聖堂”とは、東京・御茶の水の史跡・湯島聖堂のこと。かつて、湯島聖堂内の斯文(しぶん)会館には、本物の中国料理の研究と普及を趣旨に、研究者や料理人が集い、活動していました。現在、東京・吉祥寺で中国料理店を営む山本豊(やまもと・ゆたか)さんは、18歳でその書籍文物流通会・中国料理研究部の門をたたいたそうです。
「まだ物資も乏しい時代でしたが、料理の講習会も行っていました」。

■飽きのこない、絶妙な味わい

中国料理研究部のベースは、北京など、宮廷料理を軸にした北方の料理。すっきりして上品、素材の持ち味を生かす料理だったそうです。その中で生まれた酢豚は、本場の極意を踏襲しつつも、日本の風土に合ったもの。「あの酢豚は聖堂オリジナルだと思います。さっぱりしていて、でもピシッと味が決まっていました」。
なるほど、つくってもらった聖堂式酢豚は、黒酢酢豚とも、トマトケチャップを使った酢豚とも違う、軽やかできれいな味わい。揚げ物に甘酢あんという強い組み合わせの中に、それぞれの素材の持ち味が埋没せず、シャープにたっています。まさに伝説の酢豚、ここにあり!
思わず白いご飯が欲しくなりました。
※この「伝説の酢豚」のつくり方はテキストに掲載しています。
■『NHKきょうの料理』2015年5月号より

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