趙治勲二十五世本因坊と小林光一名誉三冠の仲を取り持とうとしてくれた棋士

イラスト・石井里果
テキスト『NHK囲碁講座』の人気連載「二十五世本因坊治勲のちょっといい碁の話」。5月号では先月に引き続き、趙治勲二十五世本因坊が入段間もないころに上には上がいることを教えてくれたという棋士を紹介します。

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酒井猛(九段)さんはね、何と表現したらいいか…。悩ましいです。ただ、碁の話をすると延々と続く。もう止まらないって感じでね。それは67歳の今でも変わらないんだから、大したものです。
碁打ちの世界では何事も二派に分かれる傾向があります。ライバル関係でいうと、「木谷實、呉清源」「坂田、秀行(さかた、しゅうこう・坂田栄男二十三世本因坊と藤沢秀行名誉棋聖)」、「竹林(ちくりん・大竹英雄名誉碁聖と林海峰名誉天元)」とかはキレイに二手に分かれます。ところが光一(小林名誉三冠)さんとぼくに関しては大きな偏りが…。棋士は狭い世界にいるので人柄や誠実さが伝わりやすい。だからかな。かなり光一派が多かった。でもね、アマチュアの皆さんの間では、ぼくのほうが人気はあったみたい。テレビや雑誌でアホな話ばかりしていたからね(笑)。
脇道にそれました。えーとね、酒井さんは光一派。そして光一さんとは大の親友でした。ところが不思議なんだけど、ぼくのことも気にかけてくれたんです。
ずっとずっと昔。光一さんとぼくがタイトルを争っていたころです。「全く口をきかなかった」とか、「局後の検討のときに言い争いがあった」などと報じられることもあり、確かにギクシャクした雰囲気がありました。酒井さんはそれを心配したんだろうね。なんと、光一さんとぼくをね、ご自宅に呼んでくれたんですよ。そしてゴルフを一緒にしましょうって。
正直、あまり気が進まなかったですけどね(笑)。でもまあ、あの優しさには驚きました。光一さんとぼくを、何とか良好な関係にしてあげたいって思っていたんだね。男気と言うのかな、こういうのは。
このエピソードからも分かるように、酒井さんはこうだと思えば一直線に進んじゃうタイプ。自分を曲げないから、それゆえのトラブルもあったと思うけど、純真さ、純朴さは酒井さんの持ち味です。
■『NHK囲碁講座』2015年5月号より

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