風俗嬢の立場を追い詰めているのはフェミニズム思考? 

日本の風俗嬢 (新潮新書 581)
『日本の風俗嬢 (新潮新書 581)』
中村淳彦
新潮社
842円(税込)
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"借金を返すために、カラダを売る"
"生活苦で、泣く泣く風俗に身を沈めて..."

 セックスワーカー、なかでも風俗嬢に対しては、そんなイメージを持つ方がほとんどではないでしょうか? 実際、多くのセックスワーカーにはそれぞれ「やむにやまれぬ理由」があるとは思いますが、これまでにも数多くのセックスワーカーに取材を重ね『職業としてのAV女優』(幻冬舎刊)や『デフレ化するセックス』(宝島新書刊)などの著作があるフリーライターの中村淳彦さんは、本書『日本の風俗嬢』で、風俗嬢の驚きの実情を述べています。

 本書の第三章「激増する一般女性たち」によれば、いまや風俗嬢には、東京大学など難関大学の現役女子大生もいるほか、ヘルパーや介護福祉士などの介護職に従事する女性が、兼業して働いていることも多いそうです。高学歴の女性や、介護職のようなコミュニケーション能力に優れた女性は、風俗嬢としても成功しやすいのだとか。

 一方で、明らかに容姿が劣る女性や、手首にリストカットの痕跡があるなど精神面で不安定な女性は、面接を受けても容赦なく落とされる、という現実も述べています。もはや風俗嬢は、「やむを得ず」選ぶ職業ではなく「なりたくてもなれない」職業となっている側面もあるというのです。

 中村さんは、風俗嬢の実情を述べた上で、本書の第六章「性風俗が『普通の仕事』になる日」では、多くの風俗嬢は、「安全に健康に働ける」ために「性風俗を職業として認めてほしい」と考えていると指摘しています。そこで障壁となるのが「男性たちに性奴隷として働かされている風俗嬢を救済しなくては」と提唱するフェミニストたちの意見。現実問題として、風俗嬢は、性感染症や妊娠のリスク・客からのストーカー被害など命に関わる問題に日々直面しています。そのような問題が目前にあっても、フェミニストたちは、現実的な対策を提示するのではなく、性風俗を職業として認めないという理想論に終始しがちです。皮肉なことに、女性の味方であるはずのフェミニズム的思考が、逆に風俗嬢達を追い詰めているというのです。

 中村さんは、社会にとって、性風俗業は必須の存在であり、そこで働く人々には「安全に健康に働ける」という、誰もが持っている最低限の権利を保障すべきだろうと述べています。風俗嬢に代表されるセックスワーカーを、やみくもに規制するのではなく、まず、真っ当な職業として認め、彼女たちの労働環境を整備することが先決だというのです。

 もちろん、こうした考えをまったく受け入れられない人も少なくないとは思います。ただ、とかく偏見にさらされがちなセックスワーカーの実情を知ることは必要です。今後の「彼女たち」のことを考える上でも、本書は手助けになる一冊になるのではないでしょうか。

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