世界に勝てない日本企業は、ユダヤ人のサバイバル術「タルムード」に学べ

石角完爾
集英社
1260円(税込)
ユダヤ人の成功哲学「タルムード」金言集
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 先週、社員13人の写真共有アプリを開発したベンチャー企業を、10億ドルもの巨額で買収したSNS大手の米Facebook社。成長の留まるところを見せない、まさに現代社会の成功者と呼べる存在です。

 このFacebook社と、インテルやゴールドマンサックス、モルガン・スタンレー、ニューヨーク・タイムズなど、世界の名だたる企業にはある共通点があります。あるいは「マーク・ザッカーバーグと、映画界の巨匠スティーブン・スピルバーグとの共通点」と言ったほうが分かりやすいかもしれません。

 答えは、ユダヤ系であること。ユダヤ人は太古の昔から「流浪の民」として様々な国で差別や偏見にさらされ、20世紀にはナチス・ドイツによる大虐殺を受けた悲劇の民族。これほど波乱のバックボーンを持ちながら、なぜ成功者が多いのでしょうか。

 自らユダヤ教に改宗し、日本人からユダヤ人になった国際弁護士の石角完爾(いしずみ かんじ)氏は、著書『ユダヤ人の成功哲学「タルムード」金言集』の中で、ユダヤ人の成功の理由を明かしています。

 例えば、ユダヤ人が常に物事を多面的に見て状況判断する姿勢。ユダヤ人は、リンゴが木から落ちるのを見て「なぜ天空に吸い上げられずに地面に向かって動くのか」と考えるのだそうです。ビジネスにおいても、常に世の中の流れと逆の発想で思考する彼らは、不況をいち早く察知し、すぐに撤退や路線変更します。逆に好況のときには手を広げすぎず、慎重に行動するのだとか。この多面的な判断と堅実な行動に基づいた独特のリスク管理こそが、ユダヤ人が成功する理由なのです。

 では、このようなユダヤ人の成功哲学を育んでいるものとは何か――。それは、5000年もの間、親から子へと語り継がれている口伝律法「タルムード」にあると石角氏。タルムードとは、日常生活の慣習や医学、子育て、紛争解決から性生活に至るまで、生活のあらゆる事柄についての規範と詳細な議論を書きとめた世界最大の議論集です。このタルムードは、子どもにも分かりやすいように例え話の形で語り継がれており、ユダヤ人の母親は子どもが小さい頃からこの逸話を繰り返し読み聞かせます。そして、記された行動の一つひとつを「あなたならどうする?」と問いかけ続けるのだそうです。困難を乗り越える方法を幼いながらも必死に導き出そうとする――こうした「なぜ?」の積み重ねが、どんな困難にぶつかっても、切り抜ける工夫やアイディアを生み出す思考回路を形成していくのです。

 いわばユダヤ人のサバイバル思考の基となっているこのタルムードは、多くの不安に苛まれる現代の日本人が、よりよい人生を送るためのヒントの宝庫とも言えそうです。


 例えば、「ノーペイン・ノーゲイン(自己犠牲なくして成功なし)」を教訓とした『魔法のザクロ』という説話。「ゲイン」が見えてきたら捨てるのではなく、先に捨てなければ道は開けないという、金や株式の原則を超えた、人生におけるチャレンジ精神を教えています。

 また、『ナポレオンとニシンの話』では、「小さな儲けにとどめよ それを繰り返せ」と堅実な金儲けの精神を教え、「ユダヤ人は強欲な金の亡者」という偏見に満ちたイメージを覆してくれます。

 他にも、人生は良いときばかりではないと教える『10個のクッキーの数え方』や、子どもにリスク分散を考えさせる『鶏の卵の運び方』、またプレゼン力に乏しいと言われる日本人が思わずドキリとしてしまうような『手と足と目と口 一番偉いのは誰?』といったような、様々な説話が収められています。

 ユダヤ人の骨の髄まで染みこんだこれらの説話と、常に問い続ける「なぜ?」の鍛錬こそが、ユダヤ系の実業家や企業に成功者が多い秘密。本書ではこれらの叡智に富んだ説話を、日本人にも分かりやすく紹介しています。日本人と日本企業が国際社会で生き残るための多くの「金言」が詰まった、現代人の必読書となりそうです。

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