宇宙飛行士・若田さんが水深30mで遭遇した危機的状況
- 『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力 (講談社プラスアルファ新書)』
- 門倉 紫麻
- 講談社
- 720円(税込)
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「2人で宇宙へ行く」という約束をかなえるために奮闘する兄弟を描いた人気漫画「宇宙兄弟」。5月5には映画が公開され、小栗旬と岡田将生が兄弟となり宇宙を目指します。
宇宙飛行士といえば、頭が良く、身体能力が高く、努力家で、心が広い......。想像するとキリがないくらいに能力が高い人ではないでしょうか。書籍『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』では、そんな宇宙飛行士9人と3人の宇宙開発の現場で働く人へのインタビューが収録されています。JAXAの宇宙飛行グループ長でもある若田光一さんは、同書のなかで、危機的な状況に遭遇した時の話を披露しています。
それは、水深30メートルの海底ミッションで、月面探査用の宇宙服の重心位置評価試験をしていた時のこと。海底で船外活動用のヘルメットを装着した状態で、月面での作業時の動作を模擬しながら少し激しく動いたら、とても息が苦しくなったそう。
本来、宇宙飛行士は自分の限界を把握しておき、きついと思う手前で運動をやめる必要があります。しかし、その時装着していたヘルメットはいつもの訓練で使用していたものとは違い、内容積が小さく、空気供給量もだいぶ小さかったのです。短時間で息苦しくなったのはそのせい。
「海面に向かって一気に浮上すると減圧症になってしまうのでそれはできないし、海底にある基地からもかなり離れた場所にいたので、このまま息苦しい状態が続くとパニック状態になるかなとも思いましたね。あの恐怖は......ちょっと予想できなかった」(若田さん)
そこでミッションを中断することはもちろん可能でした。しかし、それでは『パニックになる前にコントロールできなかった』という評価がくだされてしまいます。若田さんは、短時間でなすべきことを考え、「ヘルメット内の曇り止め用の空気の流れを使う」ことで、その場を乗り越えました。ヘルメットの窓が曇った場合、急激に空気を流して曇りを取り除くようなバルブがあるのです。そのバルブを開いて、かなりの量・スピードで空気を流すと、随分と息苦しさが減ったといいます。
「困った状況にあっても、とにかく、今なすべきことは何かを考える重要性が身に染みてわかりましたね」(若田さん)
宇宙飛行士だけでなく、どんな仕事でも場数が必要だといいます。宇宙飛行士の場合は、場数を踏んだ方が、このような思いがけない緊急事態に遭遇することも。そして、そういった危機的状況を乗り越えることで、経験のあるパイロットであることが証明できると若田さんは言います。どんな優秀な人でもミスはあります。しかし、そこでどう対応できるかが、成功と失敗の分かれ道なのかもしれません。