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TTRE 土屋礼央の図鑑偏愛ライフ

 「時刻表は、日本列島の解体新書なんです!」

 ブックインタビューだというのに、熱烈に『時刻表』への愛をTTRE 土屋礼央さんは語り始めた。確かに時刻表も「本」ではあるし、『タモリ倶楽部』の鉄道企画に登場するほどの鉄道好き――「鉄」である。だとしても『解体新書』とは......。

 「いいですか。鉄道は日本という人体の血脈そのものです。時刻表にはあれだけの本数、どんな列車がどこを通過するかまで、明確に記されている。人間が健康に生きていくには、時刻表を読んでその血脈の仕組みを知らなければならない。恐らく時刻表を出版している交通新聞社やJTBパブリッシングはその重要性を知っているはずです。だからこそ毎月、出版しているに違いありません。大切なことはすべて時刻表から学んだ気がします。思春期の頃には『グラビア』という4文字が、女性の水着だけを指すわけではないということも教えてもらいました(笑)」(土屋さん)

 鉄道好きというジャンルは、「撮り鉄」「乗り鉄」など、その興味の矛先によって細かくセグメント化されている。そして自身を指して「ダイヤ改正鉄」だと言う。確かに、時刻表と言えば、表紙に躍る「ダイヤ改正」という文字がつきものだ。

 「鉄道会社はとても大きな愛情で満ちています。ダイヤ改正はとてもツラく、繊細な作業ですが、あれこそまさに愛情のなせるワザ。例えば『急行を一本増発!』というのは、お客様を愛する家族のもとへ、なるべく早く帰してあげようという心遣いの象徴です。以前、京王井の頭線の吉祥寺~渋谷間が190円から210円に値上げされたことがありましたが、ある日190円に戻っていた。駅貼りのポスターを見ると、渋谷駅の改築に思いのほかコストがかからなかったのでお客様に還元するというんです。利益を追求するのが民間企業の常なのに、企業努力の姿勢が顧客に利益を還元する方向に向いている。あちらこちらから、大きな愛情が見え隠れするわけです」

 ご本人は、これほどまでに鉄道を熱く語るが、実際に読む本の比率としては「時刻表が1割、鉄道関連すべて合わせても3割程度」なのだとか。

 「もともと『図鑑』が大好きなんですよ。小中学校の頃はぶ厚い百科事典ばかり読んでいましたし、Jリーグやプロ野球の選手名鑑ももう20年ほど欠かさず買っています。選手名鑑は素晴らしいですよ。違うチームを応援する者同士でも、名鑑をテーブルの中央に置けば、「おらがチーム」のプレゼンが始まって朝まで酒が飲めます。一人で読んでいても、ライバルチームの選手構成を見て、『ここに勝つにはどうするか』と監督やGMになったつもりで、シミュレーションを楽しむこともできます」

 さらに「選手名鑑」でもサッカーとプロ野球では見どころに違いがあるという。

 「サッカーは「好きな女優は?」「好きなドラマは?」「好きな食べ物は?」といったくだけた質問への回答が面白いですね。僕はFC東京サポーターなんですが、大竹洋平という期待の選手が「ミルクレープが好き」と答えていたり、意外な一面を見ることができます。また回答からは選手個人の嗜好だけでなく、世相までもが浮き彫りになってきます。昨年までは「好きな音楽」に「湘南乃風」や「九州男」を挙げる選手が目立ったんですが、今年は「好きな番組」に『しゃべくり007』を挙げる選手が多いですね。一方、野球は『グラゼニ』ではありませんが、とにかく年俸に尽きます。まさにGMのような視点から、チーム運営をシミュレーションする。僕は埼玉西武ライオンズのファンですが、優勝した翌年は、年俸を上げざるを得なくて本当に頭が痛い。チーム愛が深まると、運営もセットで考えなければならなくなる。深いところまで数字を見ることで、さらにチーム愛が深まるという相乗効果が得られるわけです」

 土屋礼央さんは自らも『ラーメンがラーメンであるために僕たちができること』『ダイヤ改正とリンスinシャンプーで考える世界平和』などの著作を持つ作家でもある。

 「読み物だと『妄想銀行』とか、星新一の近未来SF的なショートショートが好きですね。ちょっとブラックだけど、皮肉るだけでなくその先に笑顔があるところがいい。手法でも影響されていて、僕も原稿を書くときにアルファベットの頭文字を取ったり、よく言葉を略すんです。星新一作品にもよく『Y氏』などのように頭文字が登場しますよね。そうしたぼやかし方がかえって想像の余地が出て、作品の世界観が広がるような気がします。作者が意図しないところまで読者が想像を広げることで、読書文化も広がり、深まっていくのではないでしょうか」

 そんな土屋礼央さんが考える、近未来的、本の読み方は......?

 「何回も読み返すことを前提に本を作ってみたいですね。お酒を寝かせて熟成させるように、チビチビなめていたら、味わいが変わったというような。学校の教科書でも、最初はまっさらだったのが、森鴎外にヒゲをつけたり、パラパラマンガを書いたりしていくうちに、独自の教科書に育っていきますよね。何度も読み返すうちに、解釈が変わる本だってあるはずです。それこそ『走れメロス』でメロスが帰ってこないというのは、妄想ですが本の後半がちぎれてしまったら、そういう解釈も可能な本になるわけです(笑)。他にも初版と重版でインクを変えて、『この香りは3刷だな』なんて楽しみ方もあるかも。まだまだ本には無限の可能性があるはずなんです」


<プロフィール>
1976年9月1日生まれ。東京都国分寺市出身。FC東京、埼玉西武ライオンズ、ダイヤ改正、Appleなど、愛した物、人、アイディア、全てをエンターテイメントとして表現する傾向がある。活動休止中のアカペラボーカルグループ「RAGFAIR」のメインボーカルで、ズボンドズボンのメンバーでもある。3月21日にソロプロジェクト、TTRE(Today Tsuchiya Re-invent Entertainment)の1stアルバム「humour」が発売された
http://ttre.jp/

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