開始30分の焦らしの様式美が冴える『バスケット・ケース』
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今回のお題『バスケット・ケース』(1982)は、奇才フランク・ヘネンロッター監督による、エログロホラーのカルト怪作。80年代ホラー好きなら多くを語らずとも脳裏に浮かぶであろう、"変な肉塊のお兄ちゃん"と"不憫な弟"の哀しき復讐劇でございます。
弟ドウェインの脇腹に上半身だけニョッキリ生えた形で誕生したのが本作の主役ベリアル君。当然その異型っぷりからパパに疎まれ(出産のせいでママさん死んじゃったし)、12歳になったある日、医師たちによる手術で分離された挙句、ゴミ置場に直行。ところが弟にSOSテレパシーを送って生還した肉塊ボーイ・ベリアルは、真っ先に憎きパパを抹殺!
その数年後、ただ一人愛してくれた叔母の死を機に、自分たちを分離した医師たちへの復讐を(従順な弟をコキ使って)おっぱじめるのだった。
あらすじはそんな感じですが、ストーリー上、ベリアル君がその異様な姿を披露するのは中盤から。
初見の方であれば、開始から30分間、度々その正体をチラつかせながらも、巧みに焦らしまくる、ホラー映画の様式美的演出に思わず期待が高まることでしょう。ちなみにプロレスにおける試合の様式美も、小技の応酬と関節技の攻防を経て大技合戦に転じるのが王道ですが。
しかしてその期待が砕け散るのか、あるいは予想通り過ぎて鼻でせせら笑うか。
個人的な感想を述べれば、何故かチワワ的な可愛さで記憶していたんですが、久々に観ると、可愛くもなんともねぇよコレ!状態でした。おかしいなぁ。
また、怪力設定の肉塊ボーイが巻き起こすゴアシーンも特徴......なんですが、見た目がそもそも笑いのベクトル寄りなせいか、弟の初恋に嫉妬して大暴れするストップモーションシーン(コマ撮り)の"精一杯やってる"感は微笑ましい限り。
以前触れたことのあるグレイシアーやマックス・ムーンなど、ヒーロー系ギミックレスラーがお決まりのポーズをどうにかして試合に組み込もうとする必死さにも似た謎の情熱を感じます。
さて、嫉妬で暴れたかと思えば、ビッチなオネーちゃんの部屋に忍び込んで盗んだパンティをモミモミしたりと止めどもない性欲のせいで暴走の一途をたどる肉塊ボーイ。弟への嫉妬が殺意にまで変化するも、血を分けた弟の命は奪えず......という流れで哀しい結末へ。
冷静に観ると笑ってしまう場面も多いですが、哀愁のクライマックスは、今観ても不思議な余韻を残します。カルトホラーの中ではややエロ強めですがお勧めの逸品です。
(文/シングウヤスアキ)
※ 本作のヒットにより一躍名が売れたフランク・ヘネンロッター監督。世渡り下手なのか、本作のシリーズ3作目を最後に監督業を休止。2008年のエログロ大作『バッド・バイオロジー 狂った性器ども』での復帰後は、師匠的存在のハーシェル・ゴードン・ルイス(エクスプロイテーション映画界の名物監督)のドキュメント映画を撮るなど活動の軸足を変えた模様。元気な内にもう何本かエログロホラーをお願いしたいところですね。