大金かけてパクってもダメなものはダメだとプロレス界に一石を投じた、かもしれない『モータル・コンバット』
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未だに「コピー品」が横行するこの薄汚れた世の中ですが、以前も触れた通り、プロレス界は流行りの話題にシレッと"乗っかる"風潮が強く、有名な何某かに似ているアレなレスラーが登場しては時代の狭間に消えていきました。
そんな泡沫珍ギミックの宝庫だったWWEに対し、90年代当時のライバル団体WCWもなかなかでして、95年にスマッシュヒットを飛ばした実写アクション映画に臆面もなく乗っかった珍ギミックがあります。
その乗っかられた映画とは、『バイオハザード』シリーズで著名なポール・W・S・アンダーソン監督の『モータル・コンバット(Mortal Kombat以下、MK)』。
人体破損どころか地球が爆発するなど独特な残虐表現で人気の格闘ゲームが原作。
魔界の支配者シャオ・カーンを人間界に呼び寄せようと画策する妖術師シャン・ツンは、ひとつの世界の支配者が別の世界を支配するための(人間界、魔界を含む6つの世界の創造神が定めた)条件──武闘大会「モータル・コンバット」に10回優勝する──という実にまわりくどい条件を達成するため、律儀に9回優勝までこぎ着け、いよいよ最終条件となる10回目の優勝を狙うというのが本作。
ワケも知らずに出場者として選ばれちゃった人間界の戦士たちを、オブザーバー役の雷神ライデンが上から目線で導き、シャン・ツン率いる魔界軍との決戦に挑ませる、という珍作のくせに説明するのが面倒くさいお話です。
そして、映画の公開の翌96年、WCWマットに登場したのが、MKシリーズの代名詞となる残虐な必殺技(フェイタリティ)で有名な氷忍者サブ・ゼロのイメージを拝借した、日本の武道に精通した400歳の氷の戦士という設定の「グレイシアー」。
35,000ドルを注ぎ込んだというサブ・ゼロ風特注マスクとプロテクターをつけて入場し、試合開始前にこれらの衣装を外して空手の型(カタ)を披露するんですが、この一連の所作も、同年期にWWEで活躍した日本人選手ハクシー(新崎人生)のお遍路衣装を片付ける所作に乗っかってます。
映画本作では、VFXやCGを駆使したゴアなアクション・シーンが見所ですが、現実世界に生きるグレイシアーはゴア感皆無のヘンテコ空手技ともっさりプロレス技のハイブリッドというポンコツマーシャルアーツで連戦連勝!
しかし、件の衣装のほかノリノリの入場曲がモロに映画のテーマ曲のパクリ風だったためか、簡素な衣装とショボイ新テーマ曲にグレードダウン。この辺りからゴリ押しにも陰りが。
97年になると映画2作目に先行する形で(原作を直接パクり)トカゲ男レプタイル、シャオ・カーンをモデルにした「モーティス」「レイス」という待望のライバルが登場するも、そもそもからして人気が出なかったこともあり、脚本家チームがサジを投げて抗争も自然消滅。
負傷欠場明けにはヒール転向を余儀なくされ、気付けばジョバーに。99年にはグレイシアーのギミック自体が終了し、「若手レスラーの鬼コーチ」というまったく別のギミックに転向したのでした。
片や映画2作目『モータル・コンバット2』もアレな作品で、監督に加えて主要キャストもほぼ別人に入れ替わり、予算が増えてるハズなのにCGはショボくなっていたりと、公式作品なのにパチモンみたいな珍作に。ただ、それだけに珍作好きはこっちの方が味わい深いかも。
ちなみにMK映像作品は計5作(TVシリーズ含む)で打ち止めとなっていましたが、2010年に公開されたショートフィルムをベースにWebドラマシリーズ『Mortal Kombat: Legacy』が製作され、2013年の今年、映画1作目でシャン・ツンを演じたケイリー・ヒロユキ・タガワがカムバックするシーズン2が順次公開予定。まあ日本ではシーズン1のDVDすら出てないんですけどね。
(文/シングウヤスアキ)