モータースポーツ界の"WWE"を舞台にした『タラデガ・ナイト オーバルの狼』
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何かと荒っぽいスポーツが人気なアメリカではモータースポーツすら同義なよう。中でも"喧嘩とクラッシュが華"などといわれるのが「NASCAR(ナスカー)」です。
禁酒法時代の運び屋の違法レースが成り立ちともいわれる時点でいかにもアメリカンですが、速度重視のコースに加え、カウント内なら合法なプロレスの反則行為よろしく、リタイヤさせなければ故意の接触は合法。でも結果的にクラッシュしちゃうらしく、レーサー同士の喧嘩も風物詩に。
さらにシーンの中核とされる南部のファン気質も地元出身レーサーには大歓声、都市部・外国出身者にはブーイングの嵐らしく、現在ではプロレス、特にWWEっぽいとも揶揄されているんだとか(※)。
ということで、今回のお題はモータースポーツ界の"WWE"NASCARを題材にした『タラデガ・ナイト オーバルの狼』(2006)。「俺たち」シリーズでお馴染みのウィル・フェレル主演の成り上がり&復活ドタバタコメディです。
天賦の才能でNASCARの人気レーサーとなり、名声と多額のCM出演収入、ビッチな妻や息子たちに囲まれ人生バラ色となったリッキー(フェレル)。ところが、F1出身のフランス人レーサーとのレースで大クラッシュを経験し、精神的に再起不能に。チームから解雇され、坂を転げ落ちるように没落......。
家族や仲間の支えでどうにかレースに復帰したリッキーだが、果たして再び栄光を得られるのか?! という内容。
移籍して来たライバルにチームを追いやられ、親友には嫁を寝とられ豪邸まで奪われるけど、全てレースでリベンジ!というストーリーからして、色々あってもあくまで試合で決着をつけるWWE的展開。
また、現実のNASCARにも「ヒール」を意識した言動をとる、自己プロデュースに長けたレーサーもいるそうですが、劇中でいえば、まさにライバル役のフランス人レーサー・ジラールは、プロレス的な存在です。
『ブルーノ』や『ボラット』で胡散臭い外人役に定評のあるサシャ・バロン・コーエンが演じていることもあり、プロレスにおけるフランス人ギミックのイメージそのまんまの、ネットリ系ヒールっぷりを見せてくれます(しかもゲイ設定だし)。
題材からしてプロレスっぽい上、登場人物、展開まで見事にWWE的な本作。カーレースに興味がなくてもベタな笑いを楽しめるため(オチは『キャノンボール』風)、W・フェレル作品の中では、アタリ作といえる一品となっております。
(文/シングウヤスアキ)
※プロレスもアメリカ南部を中心に興行として発展した経緯があり、いわゆる"レッドネック(南部男)"に人気のスポーツという共通点があります。