良作よりも失敗作ほど記憶に残るものである。『ハワード・ザ・ダック 暗黒魔王の陰謀』
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2月に発表された第33回ゴールデン・ラズベリー賞では、2012年最低の映画として『トワイライトサーガ ブレイキング・ドーンPart2』が7部門を制覇しましたが、今回のお題『ハワード・ザ・ダック 暗黒魔王の陰謀』(1986)は、第7回ラジー賞主要4部門に輝いてしまった珍作にして、著名海外サイトでクソ映画100傑に数えられる失敗作(少し前のお題『デッドフォール』は3部門にノミネートのみ)。
アラサー以前だと「所さんの吹き替え」でご記憶されている方も多いかもしれませんが、コミック原作のSFコメディモノで、そのあらすじは・・・並行世界から意図せず次元転移してしまったアヒル人間ハワードが、売れないバンドヴォーカル・ビバリーとの禁断の恋がチラつくリア充展開を経て、元の世界に戻る方法を求めてジェニング博士の元を訪れるも、ハワードの転移自体が博士の実験のせいだったうえ、再実験でハワードの世界とは別世界の暗黒魔王さんが博士に憑依してしまい、予測不能の大騒動に巻き込まれる...といった内容。
映画の失敗作をプロレスで喩えるなら"失敗ギミック"。それこそ古今東西、数多のギミックが星屑のように消えていったワケですが、世界イチの団体WWEが放り(ひり)出した失敗作ということでよくネタにされるのが「マックス・ムーン」というギミックです。
時は1992年。南米系マッチョレスラー・コナンがWWE(WWF)入団時に提示したアイデアをマクマホン会長が気に入り、水色をベースにしたエキセントリックな全身タイツとマッシヴなマスク、そして入場時に両腕に装着するアームキャノン(紙テープやスモークが出る仕組み)を1300ドル(当時1ドル約126円)を投じて製作。
選手衣装としてはタイツ一丁とチャチな羽織モノがほとんどだった時代なので、破格の製作費かと思われます。
『ハワード・ザ・ダック』は、莫大な製作費を掛けた割にはショボイSFX(特にハワードの造形)でラジー賞最低視覚効果部門をさらいましたが、我らがマックス・ムーンの高額衣装も"お母さんが手作りしたハロウィン用コスプレ"などと揶揄されているだけあって色々と被るものがありますね。
ハワードに関しては、原作がドナルドダックのパロディキャラで、しかも代表的イメージがまんま"ドナルド"だった故に、映画版のキモいアヒル人間のキグルミ(中身はミゼット俳優)が不評だったとも聞きます。
我らがマックス・ムーンもタイツは映画『トロン』、アームキャノンや全体のイメージは有名ゲームの「ロックマン」に近いのですが、日本で見たモノをベースにしたというコナン本人の証言や、彼が1990年に初来日した頃にはすでにロックマン人気が日本のみならず世界的に定着していたそうなので、ゲーム好きのチビッコを狙ってパク・・・参考にしてみたけど、技術的に難があったのは明白。
SFX以外でも陳腐な脚本も相まってジョージ・ルーカス(製作総指揮)の黒歴史だのと散々な評価の『ハワード・ザ・ダック』ですが、むしろまれに見るポンコツ映画としてネタにされる現在、マイナーな良作より明らかに高い認知度を誇ります。
ヒドイ見た目と子供騙しのアームキャノンのせいで失敗ギミックとしての汚名だけが広まってしまったマックス・ムーンも、WWEが公式にネタにするほどの珍ギミックとしての地位を確立しています(※)。
限度を超えた失敗作の方が記憶に残るという意味でいえば、この両者はある意味では勝ち組なのかもしれません。
(文/シングウヤスアキ)
※コナンが会長と揉めて僅か8ヶ月でWWFを離脱しますが、せっかく作った1300ドルの衣装が勿体無かったのか、「マックス・ムーン」のギミックはポール・ダイヤモンドに引き継がれ、以後、彼の代名詞的ギミックになります。