ギミックと同化したサイコな囚人の実話系ノワール『ブロンソン』
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プロレスラーは演じるギミックで生まれ変われる職業ですが、現実社会で自ら別人格と言い張る人はタダのアブナイ人。実際、自分をある有名俳優だと思い込んだ、イギリスで最も有名なアブナイ囚人が実在するそうな。その男の半生を描いた作品が『ブロンソン』(2008)。
少年時代から問題を起こしていたマイケル・ピーターソンが、自らを「チャールズ・ブロンソン」だと思い込み、暴力と倒錯に飲み込まれる様を描く本作。監督は『ドライヴ』(2011)で注目を集めたニコラス・レンディング・レフン。
無機質な暴力シーンの数々と、「ブロンソン」自身が詩的な言い回しで半生を独白するという構成から"21世紀の『時計じかけのオレンジ』"の呼び声もあったとか。実際はそこまで高尚ではなく、「ブロンソン」演じる白塗り道化師の劇中劇シーンなどを中心にシニカルな笑いを誘う内容です。
7年の懲役でブタ箱行きとなるも度々暴れては、英国内の刑務所をたらい回し(史実では約120回!)にされた末、精神病院送りになったピーターソン氏。しかし、悪化する異常行動にサジを投げたお役所は"元々異常は無かった"として釈放へ。
この出所期間中、地下ボクシングで使ったリングネームが「チャールズ・ブロンソン」。
プロモーターから与えられた当時の有名人にちなんだ"ギミック"でしかなかったものの、宝石強盗で再び投獄される際、生来の氏名を捨て自ら「ブロンソン」に改名します。
「ブロンソン」化後は、リハビリとして始めたお絵描きから前衛芸術へと踏み出し、フルチン全身ペインティング状態で看守軍団との大乱闘フィナーレへ!
これがWWEなら単騎無双エンディングだけど、「ブロンソン」さんは敢え無く拘束されボコボコに。
結局のところこの「ブロンソン」さんはスキンヘッドのマッチョで本物と似た要素は口髭だけ。間違っても「うーん、マンダム」とか言いません。要は「ブロンソン」という名の(芸術面に目覚めた)新しい自分に同化したということなのかも。
プロレスでも息の長い選手だと本人の性格に近い言動をとるようになるなど、ギミックと本人のパーソナリティが同化していくことがあります。かの"ストーンコールド"スティーブ・オースチンは、本名は「ウィリアムス」姓でしたが、のちに法的な手段で「オースチン」に改名し、ギミックと同化を果たした一例。
ちなみに本物の俳優のブロンソン御大も本名はブロンソンじゃないから!
ともあれ、どこがブロンソンやねんというツッコミは厳禁な本作ですが、印象的な楽曲に絡めたシャレオツな映像は一見の価値アリな作品です。
(文/シングウヤスアキ)
※ 名前も暴力も芸術も有名になりたいがための発露?という味付で終わる本作ですが、作品内容は史実とは少々異なる模様。実在のご本人は終身刑で2014年現在も収監中だそうです。