目先の金儲けを止められない資本主義

資本主義社会と、資本主義以外の社会の違いは何か。資本主義のもとでは、ありとあらゆる物が商品化され、社会の「富」が「商品」に姿を変えていきます。さらにマルクスは、「商品生産が全面化された社会」──つまり、ありとあらゆる物が商品化されていく資本主義社会では、物を作る目的、すなわち労働の目的が他の社会とは大きく異なると説いています。経済思想家、大阪市立大学准教授の斎藤幸平(さいとう・こうへい)さんが解説してくれました。

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古来、人間は労働によって様々な物を作ってきました。しかし、資本主義以前の労働は、基本的に「人間の欲求を満たす」ための労働だったとマルクスはいいます。
例えば、食欲を満たすために大地を耕して、穀物や野菜を作る。あるいは、風雨や寒さから身を守るために、丈夫で暖かい衣服をこしらえる。自分を美しく見せたいという欲求を満たすための装飾品、権力を誇示するための神殿、領土をもっと広げたいという王の強欲を満たす戦争も、規模は違えど、基本的な目的は同じです。いずれ「食べ物」「衣服」「広大な土地」など、特定の物と結びついた欲求です。
こうした具体的欲求を満たすために、人間は労働したり、他の人を労働させたりしてきたわけですが、そうした生産活動には、一定の限界があるものです。たくさん食べたい、もっと食べたいといっても、食べられる量には自ずと限りがあります。いかに強欲な王も、巨大な宮殿を百も二百も欲しがったりはしない。これこそが、資本主義社会とは決定的に異なるところなのです。
アマゾンのCEOジェフ・ベゾスは、世界一の大富豪(※テキスト発売日当時)ですが、資産が2000億ドルを超えても引退する気は全然なさそうですし、かといってピラミッドを建造したいというような明確なゴールがあるわけでもなさそうです。書籍販売で成功したら次はパソコン、食品、日用品と、ただひたすら際限なく手を広げていく。なぜかというと、資本主義社会では「資本を増やす」こと自体が目的になっているからです。資本主義は利潤追求を止められない。会社の規模や個人資産がいかに膨張しようとも、たとえそれが巷から書店を一掃するという破壊的な帰結を社会の「富」にもたらすとしても、目先の金儲けを止められないのが資本主義なのです。
■『NHK100分de名著 カール・マルクス 資本論』より

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カール・マルクス『資本論』 2021年12月 (NHK100分de名著)
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斎藤 幸平
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