仏像を前にしたら……まず感じ、見えないものに目を向けよう

村松哲文さん 撮影:岡田ナツ子(Studio Mug)
大好評のビギナー向け仏像ガイド『アイドルと巡る仏像の世界』の第二弾『アイドルと旅する仏像の世界』が発売されました。講師に駒澤大学教授の村松哲文(むらまつ・てつふみ)さん、ナビゲーターに和田 彩花(わだ・あやか)さんを迎え、仏像の魅力をダイナミックな写真と詳しい解説で紹介します。
まず、仏像を鑑賞する際に心がけたいことを、村松さんに教えてもらいました。

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仏像を前にしたら、まず第1に何も考えずに、仏像と向き合うことです。対面したとき、“何を感じたのかを覚えておく”とよいでしょう。第2に見える表現だけではなく、“見えないものを見ようとする”ことを心がけましょう。
春先の講義で、いつも質問することがあります。「お寺や博物館で仏像を鑑賞するときに、どのくらいの時間立ち止まって拝観しますか?」多くの学生からは「1分」「30秒」「10秒」などと返ってきます。たまに「3分」という学生もいて、「偉いね」と褒めると、「お願い事がたくさんあるから」という無邪気な返事もあります。ある調査によると、博物館で作品を鑑賞するときの平均時間は、1作品で15秒前後と報告されています。しかし、15秒間では見えないものを見ることはできませんね。
1体の仏像がつくられる背景には、表面には現れない歴史的な事情があります。例えば東大寺の大仏。本名は廬舎那仏(るしゃなぶつ)といい、無限に大きな仏様の教えを説いた「華厳教(けごんきょう)」の教主です。
大仏を拝観して、誰もがその大きさに驚かされるでしょう。台座を除いて像高は約15m。高温で銅を溶かし、こんなに巨大な大仏を制作するのには意味があります。それは古代インドの人が考え出した宇宙観、蓮華蔵世界(れんげぞうせかい)という宇宙の中の仏像を表現するため、見上げるほど大きな仏像を造立したのです。さらにいえば、聖武天皇(しょうむてんのう)は、疫病や飢饉(ききん)など当時の社会不安に対し、仏教によって国を護る鎮護国家を目指していて、それを象徴する寺院と仏像を表現したかったからです。
大仏を拝観して、まず「大きいな」と感じることは大切です。次に、なぜ大きな仏像をつくったのか考えること。そうすると、じっくり時間をかけて鑑賞することになります。
肝心なことは、まず知ることではなく、感じること。そして、仏像と対面し、自分が仏像から感じ取ったことや気になったことをメモしておき、鑑賞後にいろいろと調べてみましょう。できれば、仏像を簡単にスケッチしておくと、後で調べる際に役立ちます。これを繰り返してメモ情報を蓄積することにより、時代による特徴や、制作者による癖などが見えてきます。
ぜひ、世界に1つしかない「マイ仏像鑑賞ノート」をつくり、ノートを片手に仏像と対話してみてください。きっと、新たな仏像の世界が見えてくると思います。
■『NHK趣味どきっ!アイドルと旅する仏像の世界』より

NHKテキストVIEW

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