原子論、火の発見、生態・環境破壊... 人類を大きく動かしてきた"化学"の明と暗

絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている
『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』
左巻 健男
ダイヤモンド社
1,870円(税込)
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 人類の発展に欠かすことのできない"化学"の力。物質の成り立ちや性質を知る上でも非常に重要で、今なお活発な研究が続く分野でもある。とはいえ専門的な知識が必要となるだけに、化学に対して苦手意識を持っている人は多いのではないだろうか。かくいう私も、元素周期表を見ただけで頭がクラクラしてしまう。

 そんな化学にスポットを当てた1冊が、左巻健男氏の著書『絶対に面白い化学入門 世界史は化学でできている』(ダイヤモンド社)。化学が人類の歴史に与えてきた影響について、イラストや表を挿入しながらわかりやすく紹介した"サイエンスエンターテインメント"だ。

「私たちの生活を便利にしているさまざまな物質は、物質の『構造』(物質をつくる原子・分子・イオンがどんな結びつきをしているかなど)や『性質』、『化学反応』(新しい物質ができる変化。化学変化)を研究する化学が発展してきた成果である」(本書より)

 たとえばあなたは、自分の体や身の周りにあるモノがどのようにできているのか考えをめぐらしたことはないだろうか。そんな疑問について、左巻氏は第1章「すべての物質は何からできているのか?」の中で"原子論"を主張した古代ギリシアの哲学者・デモクリトスのエピソードを紹介している。

 デモクリトスの考えとは、万物をつくる"もと"は無数の粒であり、1粒1粒が壊れることはないというもの。ギリシア語の「壊れない物」という言葉を元に、私たちにとっても馴染み深い「アトム(原子)」と名づけたことも彼の功績といって過言ではないだろう。一方でデモクリトスは人間の魂も原子でできていると主張し、神の存在を否定。そのため彼が記した書物は燃やされてしまい、残念なことに現在は1冊も残っていないという。

 時には脅威ともなる"火"だが、エネルギーを作り出すという意味において人類への恩恵は計り知れない。第4章「火の発見とエネルギー革命」の中で左巻氏は、火の使用のはじまりは180万年前の原人ホモ・エレクトスの時代からだと推測。人類が発火法を発見し、火をコントロールできるようになってからの変化について以下のように語っている。

「火で肉食獣を遠ざけ、草木に火を放って罠や待ち伏せ場所に獲物を追い込んだりした。また、暖をとり、明かりや料理にも火を使った。とくに炉を発明することで火をいつでも利用できるようになった。火を囲んだ食事と団らんによって、お互いのコミュニケーションも密になり、人類の社会性は高まったのだろう」(本書より)

 また火と切っても切り離せないのが燃料。その歴史は木や木炭に始まり、石炭・石炭ガス、石油・石油ガス、天然ガスへと移行していく。ちなみに"今後のエネルギー"として期待されているのは、燃焼時に二酸化炭素を排出しない「水素エネルギー」だ。高いコストや技術力の問題が立ち塞がっており、これからどのように課題をクリアしていくのか注目したい。

 化学技術は人類の発展に大きく貢献してきた反面、化学兵器や原爆のように殺傷能力が極めて高い兵器を生み出したことも事実。また環境に影響を及ぼすことも多く、本書で左巻氏は2つの事例を示している。1つは「夢の化学合成物質」とまで呼ばれた「DDT(有機塩素系殺虫剤・ジクロロジフェニールトリクロロエタンの略)」。安価で殺虫力が高い一方で生態系に悪影響を与えており、アメリカで使用禁止もしくは使用を厳しく制限されたほどだ。

 もう1つの事例は、炭素・フッ素・塩素からなる化合物「クロロフルオロカーボン」。その名前に覚えはなくても、日本での呼称「フロン」と置き換えればわかりやすいだろう。フロンは冷媒としての役割以外にも噴射剤・洗浄剤・発泡剤などにも使用され、当初は「欠点がない」と思われていた。そんな"夢の物質"フロンも、北極・南極上空のオゾン層を破壊しているのはご存知のとおり。

「合成物質の生産と使用にあたっては、環境への配慮がますます重要になっている。合成物質の開発や製造にあたって、それが人間生活や自然環境にどのような影響を与えるかを十分に配慮したうえで臨む必要がある。

しかし、DDTやフロンの例が示すように、いつ予期せぬ問題が起こるかわからない。問題の兆候が見え始めたときに、人類の知恵を総動員して賢明に対処するしかないのだ」(本書より)

 まさしく薬にも毒にもなる化学の力。"人類発展のための技術"が進歩していくことを願いつつ、私たちも生態・環境破壊を招かないよう化学の知識を身につけながら生活していこう。

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