SNSでの繋がりをうたう

「未来」選者の佐伯裕子(さえき・ゆうこ)さんの講座「日々の「居場所」。7月号のテーマは「SNS」です。

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今月のテーマ「SNS」は、「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」の略で、登録された世界中の利用者同士が交流できるサービスです。ツイッター、フェイスブック、ラインも含め、SNSの投稿で繋がる人々の輪は広がるばかりです。ネット文化は功罪をともないながら、時代を大きく一変させてしまいました。今や、いつでも、どこでも、みんなスマートフォンを覗いています。そこが居場所なのでしょう。SNSに馴染めない私には、ネット空間に居る彼らの居湯所が見えません。では、短歌の中でその状態は、どのようにうたわれているのでしょう。現在はカタカナ語や英語 がそのまま短歌に登場してきます。それでも、新しい文化、新しい言葉が短歌に定着するには時間がかかります。日々変化するネット空間の表現は、まだ未開拓といっていいでしょう。
君からのLINE 画面に映りたる太平洋の青が眩しい

田中拓也(たなか・たくや) 『東京』



旅先など 離れた場所から、その光景を相手と共有できる時代になりました。瞬時に映像をLINE(ライン)で送れるのです。「君」は、太平洋の海辺にいるのでしょう。美しい海原を撮って、言葉とともに映像を送りました。それも瞬時に、です。かつてだったら、どのような海で、どのように眩しかったかを言葉で書いて、絵葉書を出したことでしょう。スマホの着信を開くと、はっとする眩しい太平洋の海が、画面いっぱいに広がりました。「君」と同じ海辺に、同時に立っているのです。結句の「眩しい」からは、弾むような嬉しさが伝わってきます。
 
ツイッターに女雛の画像をみておれば一番かわいいわが子と思う

富田睦子(とみた・むつこ)『風と雲雀』



誰のツイッターなのかは描かれません。そこに映っていた「女雛(めびな)」の方が印象に残ってしまったのです。じっと見ているうちに、ふと「一番かわいいわが子」と思ってしまいました。少女時代の雛人形が重なったのかもしれません。それにしても、わが子と比べてしまう表現は不思議でしょう。何気なく覗いたツイッターで、ふと出会った女雛の画像への愛情。それは、ネット空間の映像であり、実際の人形ではありません。まして現実のわが子でもないのです。ツイッターの空間と現実生活の境界。その境があいまいになってくる現代的な感覚が読み取れました。
■『NHK短歌』2021年7月号より

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