特攻隊員、安藤組組長、映画俳優......"伝説のヤクザ"の波乱万丈な生涯を描いたノンフィクションノベル

あるヤクザの生涯 安藤昇伝
『あるヤクザの生涯 安藤昇伝』
石原 慎太郎
幻冬舎
1,540円(税込)
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 戦後のヤクザ史に新風を吹き込んだ男・安藤 昇。その激動の生涯をノンフィクションノベル形式で鮮やかに描き出したのが、作家・石原慎太郎による『あるヤクザの生涯 安藤昇伝』です。

 1926年生まれ東京出身、子どものころからケンカの絶えなかった安藤は、中学生のときに少年院に送られたあと、三重の海軍航空隊に予科練習生として入隊し、特攻隊に志願します。過酷な訓練を受けるなか、終戦となり除隊になった安藤。その後、法政大学に入学したものの翌年には退学し、「東興行(のちの安藤組)」を立ち上げます。安藤は仲間たちと闇商売や力ずくのいざこざでどんどんと勢力を拡大していきます。

 安藤組が従来の暴力団と比べて異色だったのは、"しきたり"を舎弟たちにいっさいさせなかった点。指を詰めることや刺青を入れることは許さず、盃を交わすこともなく、服装は普通の勤め人と同じ背広を着る。そのスタイルが若者たちにもなじみやすく、大学生や高校生にも構成員は多かったといいます。

 さらにユニークなのが、安藤の経歴には暴力団員のほか、俳優、小説家、歌手といった肩書きもあるところ。横井英樹襲撃事件で服役して出所したのち、安藤組を解散して以降は俳優として何本もの映画に出演しているのです。第一作目は自身の自叙伝を映画化したもので、なんと主人公の安藤役を自身で演じて大ヒット。反社会的勢力と距離を置くのが当然とする現代の感覚からすると考え難い出来事です。昭和のおおらかな時代ならでは、なのでしょうか......。

 本書を読んでいても、天性の"ヤクザ者"でありながら、憎み切れない部分を持つのが安藤という人物像なのだろうと感じます。それは本書が安藤に対して好意的な目線で書かれているからという理由もありますが、安藤のキャラクターや生き方によるところも大きいでしょう。もちろん暴力はけっして肯定できるものではありませんが、"筋が通らないことは許さない""人情を大切にする"などの点に惹きつけられる人は少なくないはず。

 それにしても、なぜ著者は安藤をテーマに本を書こうと決めたのでしょうか。この経緯は、本書の最後にある「長い後書き」に書かれています。あとがきにしては非常に長く、著者が安藤との交流について記したミニエッセイといってもよいかもしれません。

 安藤がなぜ今も伝説のヤクザとして語り継がれるのか、興味のある方は本書を読んでみることをおすすめします。

[文・鷺ノ宮やよい]

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