観戦記者が観た 棋聖戦の舞台裏

観戦記者だからこそ目にすることができる棋士の姿があります。対局場の内外での様々な出来事を綴る「観戦記者の独り言」。2020年5月号では、村上深さんが棋聖戦の舞台裏エピソードを披露してくれました。

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僕が囲碁を覚えてから25年がたちました。プロを志したこともあり、それなりにディープなところで囲碁の世界を過ごしてきたとの自負はあります。しかし、囲碁をなりわいとしたのはここ4年ほどで、観戦記者としてはわずか1年ちょっと。まだ囲碁の世界ではペーペーと言ってよいでしょう。
そんな僕が、棋聖戦第1局の観戦記を担当することになりました。タイトル戦は最も大きなひのき舞台。対局者の雰囲気や表情、舞台の裏側の様子。どんなことを目の当たりにできるのかな、とワクワクした気持ちが湧いてきます。
小学生の頃の、遠足前の気持ちを思い出しながら、早めに会場入り。すでに新聞社の方や日本棋院の方が取材、中継の準備で忙しそう。多くの人が関わっているイベントなのだ、と実感します。
1日目が終わって、関係者で夕食を囲んでいると、なんと挑戦者の河野臨九段が登場。「予定はもらっていたのですが、スマホがないので分からなくて…」。2日制の対局では、不正防止のためにパソコンやスマホは持ち込み禁止なのです。対局中にもかかわらず、きさくに歓談される様子は、普段の人柄がにじみ出るようでした。
2日目は観戦に来る棋士も多く、にぎやか。昼食休憩の後、しばらく姿が見えなかった新聞解説の山下敬吾九段が大きな紙袋を両手から下げています。「豆大福です。皆さんでどうぞ」。気配りの人なのですね。
棋士と間近で接することができる。この仕事を選んでよかったと強く思います。
■『NHK囲碁講座』連載「観戦記者の独り言」2020年5月号より

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