注目の新品種「ラグランジア ブライダルシャワー」が生まれたきっかけとは

撮影:竹前 朗
今まで見たことのないアジサイ……そんな表現の仕方がぴったりとくる新品種「ラグランジア ブライダルシャワー」。いま、最も注目されるアジサイの生みの親である育種家、坂嵜 潮(さかざき・うしお)さんにお話を伺いました。

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■期待される新品種

株全体にあふれるように白い花が咲き、これがアジサイかと見まごうばかりの花姿のラグランジア ブライダルシャワー。この花は2018年にはチェルシーフラワーショウ新品種部門で「プラント・オブ・ザ・イヤー(最高金賞)」を受賞、昨年末には、全国的な新品種のコンテスト、ジャパンフラワーセレクション(JFS)2019-2020の鉢物部門で「フラワー・オブ・ザ・イヤー(最優秀賞)」を受賞しました。その受賞理由は、多くのアジサイと違いわき芽からも開花するため、株自体のボリュームが大きく、葉が小さいために斬新な株姿になることや、ピンチの位置が自由になるために仕立てのバリエーションが豊富になることなどがあげられています。
選考コメントにも「画期的」「花き業界にインパクトを与える」などの言葉が並び、大いに期待される新品種なのです。

■幸運な出会いと膨大な準備作業

どういう経緯でこのアジサイが生まれたのか。生みの親である育種家の坂嵜潮さんに、聞いてみました。
「あるとき地元の滋賀県特産の新しい果物をつくり出すために、黄色いキイチゴの野生種を探していました。古い文献にあたり各地に出向いていたなかで、たまたま野生種のアジサイと出会いました。それは葉が小さく、株いっぱいに花をつけたものでした。この種の自然雑種が販売されていたことを知り、だったら園芸品種との交配ができるのでは、と思いついてしまったんです」
出会い頭の事故のようなもの、と笑う坂嵜さん。しかしそもそも、花木の交配はやりたくなかったといいます。それは完成までに時間がかかりすぎるから。
今年の予定では、およそ5000本の実生苗(種子から育てる苗)を育て、数日かけて2000本まで選抜。翌年まで苗を育てさらに大規模な選抜で数百株にまで絞り、開花期や花後の様子までを見極めて、商品になる株を選びます。
「商品になるのは0.5%くらい。10株くらいは残ってほしいですね」
もちろん、最初の種子を得るために、千回に及ぶ人工授粉を行うわけです。必要な作業は繊細かつ膨大で、最初の選抜が終了するまでの一連の作業には2年の歳月がかかります。ラグランジア ブライダルシャワーは、今年で5回目のプログラムになるそうです。
取材時はちょうど初めてこのアジサイが店頭に並ぶころで、坂嵜さんは「これから、皆さんがどんなふうに育ててくれて、どんな反響が返ってくるのか、楽しみです」とおっしゃっていました。
■『NHK趣味の園芸』2020年6月号より

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