90歳のあじさい物語

すべてはこの道から始まった。墓へと続く坂道。撮影:田中雅也
50年かけて、山いっぱいにアジサイを植えた南澤忠一さん。斜面に力強くのびのびと咲くアジサイたちは、たった一人であじさい山をつくり上げた忠一さんの人生の歩みそのものです。

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■少しずつ広がったあじさい山

忠一さんがアジサイを植え始めたのは、1970年代のことでした。山の中腹にある先祖のお墓へつながる山道を、花で彩りたいと思ったのが始まりです。
「お盆の時期に咲いてくれて、山道の環境と景色に調和する花を考えたら、自然とアジサイを選びました」
初めはお墓までの道に植えるだけ、と思っていたところ、山道に見事に咲くアジサイを見にくる人が少しずつふえて、ちょっとしたアジサイの名所に。せっかく見にきてくれるならもっと喜んでもらいたいと、お墓の先にある山の斜面にも、アジサイを植えることにしました。
「誰に頼まれるでもなく、一人きりで山に入って、木を切って、アジサイを植えていました。妻は何の稼ぎにもならない、毎日泥だらけで洗濯物がふえるだけって呆れてたな(笑)」
もう少し上まで、もう少し広げてみよう、そう思って続けているうち、気づけば斜面いっぱいにアジサイが広がっていたのです。

■次世代へつながる思い

今、あじさい山には約1万株、100種類以上のアジサイが植わっているといいます。斜面に咲くアジサイは土壌と肥料の関係で全体にブルー系の花が多く、木々の中に青い絨毯が広がっているような景色はあじさい山の目玉です。一方、両わきの通路を歩くと、白やピンク、形もさまざまなアジサイが植えられていることに気づきます。もともと自生していたヤマアジサイのほかに、忠一さんが新たに植えた園芸品種も山に根を張っています。
「人が植えてつくり上げた景色だけど、自然の山と調和しているというのが、あじさい山ならではの魅力なんじゃないかな」
2016年からは、このあじさい山を広く知ってもらいたい、この先も長く愛される場所にしたいという思いから、地元の若者が管理を手伝うようになりました。来場者への案内や道路の整備などはもちろん、アジサイの管理、木々の手入れなど、忠一さんが長年山に入って培ってきた技術を受け継ぐべく、奮闘しています。
あじさい山のオープンは開花の最盛期の約1か月間。山のふもとに住む忠一さんも時折顔を出し、訪れた人を笑顔で迎えます。
■『NHK趣味の園芸』2020年6月号より

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