壮大で複雑な『平家物語』のエッセンス

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。」
誰もが一度は聞いたことがある、あるいは学校で習った記憶があるフレーズではないでしょうか。こうして始まる『平家物語』は、平安末期に起こった、平家と源氏の騒乱を描く長大な軍記物語──というのが一般的な理解でしょう。しかし、能楽師の安田 登(やすだ・のぼる)さんは、「実際に読んでみると源氏が本格的に登場するのは物語の後半ですから、全体として見ると、平家の衰退を描く物語と捉えたほうが正確だと思います」と指摘します。長く、複雑な物語である『平家物語』のあらすじを安田さんに解説してもらいました。

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主人公はタイトルの通り平家一門。当時はさげすまれていた武士階級にあった平家ですが、天皇家、貴族、寺社との関係を強めることで、武家としては前代未聞の繁栄を果たします。平家の棟梁であった平清盛は武士としては初めて、貴族の最高位である太政大臣にまで上り詰め、だんだん傲慢になっていきます。これに不満を持った貴族や寺社勢力が反乱を起こしますが、失敗。しかし、これによって清盛の横暴さはさらに増します。意のままに振る舞おうとする清盛のただひとりのブレーキ役が、長男の重盛(しげもり)でした。
しかし、その重盛は若くして亡くなってしまいます。平家の将来を託そうとしていただけに清盛は嘆き悲しみますが、やがて高倉天皇に入内(じゅだい)した娘・徳子が男子を産み、その皇子が即位して安徳天皇になったことで、清盛をはじめとする平家一門の栄華は頂点に達します。
しかし、ここから平家打倒の動きが本格化します。後白河法皇の子以仁王(もちひとおう)の令旨(りょうじ)で全国の源氏が挙兵。清盛は、強引に都を福原に遷(うつ)したり、反抗的な南都の寺社を押さえつけるため五男重衡(しげひら)に命じて奈良を攻めたりします。しかし、その際の不可抗力で奈良の寺社を焼き尽くしてしまったため、反平家の機運がさらに高まってしまいます。
そんな中、清盛が突然亡くなります。カリスマ清盛を失った平家は、突然、没落の一途をたどることになります。信濃源氏の木曾義仲との戦いに敗れた三男宗盛(むねもり)、四男知盛(とももり)、孫の維盛(これもり)ら平家一門は都落ちし、安徳天皇を連れて船で西国を漂う身となります。一方、都に入った義仲は、平家以上に横暴に振る舞い、人々は不満を抱くようになる。そんな中、後白河法皇から鎌倉の源頼朝に対し征夷大将軍任命の院宣が下ります。頼朝は都での源氏への逆風を読み取って、身内である義仲に追討の兵を向けます。頼朝の派遣軍は義仲を討ち取り、さらに平家追討に進んだ源範頼・義経兄弟が、一の谷、屋島、壇ノ浦の三つの大きな戦いに勝ち、平家はついに滅ぼされる──。以上がごく簡単なあらすじです。
■『NHK100分de名著 平家物語』より

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