奨励会入会の同期どうしの直接対決

左/斎藤慎太郎八段、右/永瀬拓矢 二冠 撮影:河井邦彦
第69回NHK杯準々決勝第2局は、 斎藤慎太郎(さいとう・しんたろう)八段と永瀬拓矢(ながせ・たくや)二冠の対局となった。岩田大介さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。


* * *


■もう負けられない

永瀬と斎藤は奨励会入会の同期。東西に分かれていたため交流はなかったが、2015年の電王戦で同じチームになって縁ができた。のちに永瀬から声をかけて練習将棋を指すようになる。永瀬の大阪遠征の際には斎藤から練習将棋に誘った。ともに切磋琢磨(せっさたくま)する存在だった。
しかし、勝負の世界に生きる以上、直接対決は避けられない。斎藤は昨年秋、王座のタイトルを永瀬に奪われた。ストレート負けだった。冬にも1敗して4連敗。ここが踏ん張りどころとの思いで本局に臨む。
注目の戦型は角換わり腰掛け銀。1図から十数手ほど進み、▲4五桂で斎藤から戦端を開いた。▲8八玉も有力だが、後手が攻める展開になりやすい。

 


「王座戦では攻守のバランスよく戦おうとしましたが、積極的に指されて序盤から想定を外されました。永瀬さんは受け将棋というイメージをまず変えなければと思いました」
▲4五桂で主導権を握りにいくのは王座戦の反省も踏まえてのことだった。永瀬がじっくり受けてくると見込むと痛い目に遭う。

■想定を外れる

斎藤には指してみたい形があった。それが2図で▲2四歩。


「後手をもって指したことがあるのですが、先手有力だと思ったので採用しました」という。2筋で1歩を持ち、▲7四歩を絡めて攻める構想だ。
永瀬は▲2四歩に△同歩▲同飛の局面で長考に沈んだ。定跡の主流は▲4五歩から▲4六桂を狙う指し方であり、本譜の▲2四歩は想定しづらい形だったか。「▲2四同飛にどう指すかは悩ましかったです」と明かした。5分ほど考えて△3三銀▲2九飛△2四歩と応じる。
斎藤も3図から少しずつ想定を外れていく。本命の進行は△5五歩▲6六桂△5六歩▲5四桂△同玉▲7四歩△7二金(△7四同金は▲7二角)▲7三銀だった。先ほど述べた▲7四歩の筋のひとつだ。しかし、永瀬は堂々と△6五同歩。

 


「△6五同歩には▲6九飛と▲6六歩がありますから、あらためて考え直すつもりでした」と斎藤。事前研究から実戦の読みに移行していく。
▲6九飛は持ち歩を温存できるが、玉飛接近の形になるので反撃が怖い。
▲6六歩は△同歩なら▲6五桂の狙い。後手が歩を取らなければ▲6五銀と出る。しかし、▲7四歩の筋が一時的に消えるため、後手が△4二玉を選びやすくなる。▲6六歩も▲6九飛も一長一短があった。
斎藤は最終的に▲6六歩を選ぶが、最善を指したという確信はなかったという。感想戦でも結論は得られず、研究課題とされた。
※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2020年4月号より

NHKテキストVIEW

NHK 将棋講座 2020年 4月号 [雑誌] (NHKテキスト)
『NHK 将棋講座 2020年 4月号 [雑誌] (NHKテキスト)』
日本放送協会,NHK出版
NHK出版
商品を購入する
>> Amazon.co.jp

« 前のページ | 次のページ »

BOOK STANDプレミアム