木村一基王位との25年間

撮影:河井邦彦
平成の将棋界はどのように動いてきたのか。平成の将棋界をどうやって戦ってきたのか。勝負の記憶は棋士の数だけ刻み込まれてきた。連載「平成の勝負師たち」、2020年4月号には木村一基(きむら・かずき)王位が登場する。今回は木村王位との親交が深い飯島栄治(いいじま・えいじ)七段に執筆いただいた。

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人の出会いとは全く偶然ではなく、前から決まっていたのではないかと思うときがある。あるいは将棋の神様がこうなるように導いてくれたのかもしれない。

■木村王位との出会い

私と木村一基王位は、知り合ってもう22年になる。ただ私が木村王位の存在を最初に知ったのは25年ほど前だ。
私がまだ中学生で奨励会1級。木村王位は奨励会三段だった。奨励会旅行というのが当時は存在していて、数年に1度の東西合同旅行のときだった。
そのときの練習対局で、木村三段と金沢孝史三段(現五段)の対戦を大勢の奨励会員が観戦していたなかに私はいた。対局は熱戦の末、金沢三段が勝った。
当時の奨励会は、今もその風習が残っているかもしれないが、奨励会三段とその他の二段以下には大きな差があった。同じ奨励会員でも三段と二段以下は気軽に口を利くような関係ではない。三段はとにかく別格の存在だった。今以上に上下関係が厳しい時代だったのである。
それから時がたち、22年前。自分が三段に、木村王位は四段に昇段していた。
私は記録係を務めることが多くなっていた。集中的に将棋の勉強をした時期であった。三段のときに木村王位の記録係を務めたのは計11局。木村王位の成績は9勝2敗だった。とても有意義で貴重な時間だった。
ある日、木村四段の対局の記録係を務めていたとき、感想戦で私は「この手はどうでしょうか?」と質問した。
それから数日後、うちに一本の電話がかかってきた。電話の主は木村四段本人であった。挨拶(あいさつ)が終わっていきなり「今度将棋を指そうか」とお誘いを受けた。「はい、よろしくお願いします」と私は即答だった。
私は記録係を務めたとき、感想戦では対局者に遠慮なく、質問をすることが多かった。
22年たって、その当時のことを木村王位に聞いてみた。王位は「いきなり筋の悪い手を指摘されて驚いた」と私をからかうのだが、あの時にもし質問してなかったら、この出会いがなかったかもしれない。あのとき遠慮しないで質問をして本当によかったと今では思っている。
それから現在まで、今も1対1の練習対局を続けていただいている。最初のうちは全く勝てなくて、手合い違いで打ち切られるのではとヒヤヒヤしていた。本番の三段リーグと同様に、木村対策を考えて挑んでいたころが懐かしい。
自分で言うのもおかしな話だが、通常の師弟でもここまでの関係はないだろう。22年の練習対局は、月1回のペースで計千局以上。その途中、11年前に1つ、5年前にも、もう1つと並行して研究会を行うようになった。今ではおよそ1月半の間に3回、木村王位と盤を挟むありがたい環境が続いている。
私は平成12年に四段になり、木村王位の背中を常に見ながら、自分もがむしゃらに一年一年を勝負をしてきた。気がついたら20年、現在に至るのである。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
※続きはテキストでお楽しみください。
■『NHK将棋講座』連載「平成の勝負師たち」2020年4月号より

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