岡本かの子、樹木希林など... 母の日に読みたい「スゴ母」たちの型破りエピソード

スゴ母列伝~いい母は天国に行ける ワルい母はどこへでも行ける
『スゴ母列伝~いい母は天国に行ける ワルい母はどこへでも行ける』
堀越 英美
大和書房
1,632円(税込)
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 新型コロナウイルス感染拡大を受けての小中学校の休校および幼稚園・保育園の休園により、一日中子どもと向き合わざるを得ない母親がほとんどの今日。子育てしながらの在宅勤務や家事労働で、疲労がピークに達しているママも多いのではないでしょうか?

 そんなママたちにオススメしたいのが、『不道徳お母さん講座:私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか』などの著者である堀越英美さんの最新刊『スゴ母列伝~いい母は天国に行ける ワルい母はどこへでも行ける』です。

 本書では「キュリー夫人」ことマリー・キュリーや、童話『長くつ下のピッピ』著者のアストリッド・リンドグレーンなど、古今東西の型破りな「スゴ母」たちの逸話をテンポよく紹介しています。なかでも突出しているのが、文豪・岡本かの子のエピソード。あの「芸術は爆発だ!」のフレーズでおなじみの世界的芸術家・岡本太郎の母です。

 息子の太郎を柱やタンスに縛り付けて、かの子が執筆に没頭していたというのは有名な育児伝説。ほかにも、料理や裁縫といった家事が苦手で「赤ちゃんの頭にしょっちゅうけつまずくようなガサツなお母さんだった」(本書より)とか、夫公認で美青年を愛人にして同居させていたとか、逸話が盛りだくさん。

 幼い太郎を相手に恋愛相談をすることもあったそうで、著者に言わせると「どっちが子どもだかわからない」母子関係だったようです。「キラキラしたものに憧れ、こってりおめかしした自分を愛し、世間が自分と同じように自分を愛してくれないことに泣く」(本書より)というナイーブな少女性と芸術性を併せ持った、およそ母親らしからぬ母親でした。もし現代社会でそんな私生活をインスタグラムにアップしていたら、大炎上しそうな破天荒ぶりです。

 しかし本書では「世間が求める『母』の型にはまることなく、泣き、笑い、甘え、徹底的に子どもにとっての他者であり続けたことで、かの子はヒューマニティを子どもの生命に刻み付けたのだ」(本書より)と述べ、いわゆる「正しい母親」像から逸脱し、自分の生き方を貫いたかの子だからこそ、太郎の人生に多大な影響を与えたことが伝わってきます。

 また、女性解放運動の先駆者である山川菊栄の母・青山千世の章では、菊栄が「母性保護論争」で知られる運動家となった背景には、母・千世の存在があったと明かします。自身も勉強大好き少女だった千世は、東京女子師範学校(現在のお茶の水女子大学)に首席で入学。当時では最先端の男女同権の教育を受け、自分の子どもたちにも読書を奨励し、学生時代の思い出を繰り返し語ったと言います。

 「良妻賢母教育など、息子や夫を立身出世させるための『卑俗な功利主義』にすぎない」(本書より)や、「貧しい女性たちが母であることを理由に教育や安定した賃労働から遠ざけられる社会の『母性』など、『奴隷としての婦人の苦役』にすぎない」(本書より)などの菊栄の論考は、いま読んでも色褪せない、非常に示唆に富んだ内容です。女性が抑圧されていた時代に、菊栄が好奇心を失わずに問題意識を持ち続け、運動家として後世に名を残すに至ったのには、千世の教えが大きかったと言えるでしょう。

 WEB連載時のスゴ母11人に加えて、コラム「歴史上のヤバ母伝説」では、ぶっ飛びすぎてヤバい母たちのこぼれ話を描くほか、大幅加筆の「まだまだいるスゴ母たち」では、小池百合子東京都知事の母・小池恵美子さんや、2018年に亡くなった女優の樹木希林さんの独特な育児スタイルなどを紹介。歯切れの良い文章でぐいぐい読み進められます。

 著者自身が「どの母もスゴすぎて育児のお手本にはきっとならないけど、『自分は自分のままでいい』と勇気が出ること請け合いである」(本書より)と断言する通り、本書は、世間の育児プレッシャーをはね返し、ママたちに自己肯定感を取り戻させてくれること間違いなしの一冊と言えるでしょう。今月10日の「母の日」を迎える前に、手に取ってみてはいかがでしょうか。

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