季節の先取りが粋! 江戸時代の促成栽培技術

江戸時代には、日本独自の生け花や庭園文化が大きく花開きました。その背後には、花や植木を生産し、提供するための園芸技術の発達があったことは見逃せません。2020年東京大会に向けて江戸の園芸を見つめ直す12回シリーズ。第9回は新春を飾る花を中心に江戸時代の促成栽培技術にスポットライトを当てます。解説は園芸研究家の小笠原誓(おがさわら・せい)さんです。

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■季節の先取りが江戸の粋

冬に花の咲く植物が極端に少ないのは自然の摂理でしょう。しかし、江戸の人々は、その冬の正月に観賞できる樹木や草花を探し出し、栽培に工夫を重ねて楽しんできました。
その背景には、少しでも季節を先取りし、誰よりも早く初物を見たいという「江戸の粋」があったことでしょう。
江戸時代には、花を生けたり、植物を鉢で栽培する園芸文化が普及し、新春に飾る花の需要も大きく伸びました。植木屋を中心とする生産者も、より高度な要求に応えようと栽培技術を高めていきました。

■合理的だった栽培技術

春の花をひと足早く新春に咲かせた種類には、ニホンズイセンやウメなどがあります。植物の生理を利用したり、太陽熱や地熱などの自然エネルギーを加温に活用したりと、今日から見ても驚くほど合理的な促成技術を駆使していました。
一方、寒ボタンのように春秋の二季咲き品種を選んで育種し、さらには晩夏に葉を切ることなどの栽培によって、冬の開花をより促す技術も記されています。
寒ボタンもそうですが、江戸時代から親しまれてきた古典植物には、名前に「寒」のつく種類が多いこと、多いこと。寒菊、寒蘭、寒わらび、寒すすき、寒竹、寒紅梅、寒桜、寒木瓜など、冬に咲く種類を見つけ出し、大切に育ててきたことがうかがえます。
栽培技術と品種選抜の両方を駆使して、花で新春を彩ることは、江戸の人々にとって、大きな楽しみだったのでしょう。
■『NHK趣味の園芸』「大江戸 花競(くら)べ 十二選」2019年12月号より

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