身体に関わる語に託した「同級生」への思い

『NHK短歌』の講座「短歌de胸キュン」、2019年10月号のテーマは「同級生」です。身体(からだ)に関わる表現を用いた「同級生」の歌を、「未来」選者の佐伯裕子(さえき・ゆうこ)さんが紹介します。

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今月のテーマは「同級生」です。同じクラスで学ぶ友人たち、先輩でもなく後輩でもない、ほぼ同じ年齢の人たちです。また、夜間の学校や専門学校など、年齢や国籍がさまざまなクラスもあることでしょう。ともに学ぶことで深く心に残る友達となるのですが、同級生に寄せる眼差しはむしろ複雑で鋭いもののようです。そのような心理が、友達の身体に関わる語に託された歌を見ていきたいと思います。髪や耳や手など、身体の一部を表す語を用いた「同級生」の歌を引いてみます。
 
全員がアトムとウランの髪型の入学式よ光るはなびら

穂村 弘(ほむら・ひろし)『水中翼船炎上中』



小学校の入学式でしょう。自分も含めて入学式の同級生を戯画化しています。みんなが夢中で読んだ手塚治虫のマンガ『鉄腕アトム』。ロボットのアトムとその妹、ウランちゃんの独特な髪型がユーモラスに並べられています。画一的で緊張した子供たちの入学式を象徴しているのですが、よく読むと奇妙な明るさが迫ってきます。結句の「光るはなびら」が、実在感のない不穏な光景をイメージさせるからでしょう。「アトム」は原子、「ウラン」は核燃料となる元素です。いずれも原子力に関わる言葉でした。近代自然科学が生んだ新時代の子供たちを、明るすぎるピカピカした髪型に象徴させて、不穏な未来をかもし出しているように読めるのです。
ほんのりと煤けてゐたが五年ぶりのあいつの羽根はまだ白かつた

笹井宏之(ささい・ひろゆき)『八月のフルート奏者』



「五年ぶりのあいつ」は同級生に違いありません。「あいつの羽根」は友人の身体であり、同時に精神でもあるでしょう。作者は平成21(2009)年、26歳で亡くなっています。生前もほとんど療養の日々を送っていました。友達と教室で学ぶ機会は少なかったと思われます。それでも、好きだった学友や、ライバルと感じた友達がいたはずです。一首は、社会に出ていったであろう友と、5年ぶりに会ったときの感想のようです。詳しい背景は語られていません。うっすらと社会人の濁りを見せながら、友は、理想をもっていた清廉な姿を保っていました。友の心身を「羽根」という比喩で表して、その姿の眩しさを印象づけています。
■『NHK短歌』2019年10月号より

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