江戸の趣味人が熱狂した万年青の雅なる“葉芸”

株ごとに異なる葉の個性が生きるなら、どんな鉢を合わせても自由。伝統的な京楽焼の万年青鉢だけでなく、観葉植物の感覚で現代風の陶器鉢やデコレーション鉢と組み合わせても面白い。品種は前列左から‘瑞泉(ずいせん)’‘嶺雲(りょううん)’‘大黒殿(だいこくでん)’、中列左から‘お多福(おたふく)’‘嶺雲’‘出世実生(しゅっせみしょう)’‘瑞泉’、後列左から‘福包(ふくづつみ)’‘新生殿(しんせいでん)’。撮影:上林徳寛
緑と斑の縞模様、表面の筋やねじれ……。江戸の趣味人たちは、小ぶりな万年青(オモト)が見せる葉のさまざまな変化(葉芸)に夢中になりました。その熱狂ぶりは今日の観葉植物や多肉植物ファンをしのぐほど。2020年東京大会に向けて江戸の園芸を見つめ直す12回シリーズ「大江戸 花競(くら)べ 十二選」。第7回は「万年青」の魅力に迫ります。講師は園芸研究家の水野豊隆(みずの・とよたか)さんです。

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■始めよう! 万年青のある生活

万年青(オモト)は常緑の多年草で、日本の宮城県以南の低山に自生するほか、朝鮮半島南部、中国、台湾などにも分布しています。中国では古くから薬草、霊草として珍重され、日本では室町時代から栽培されていたとされています。
縁起のよい植物として、現在でも転居祝いに万年青を贈る「引っ越し万年青」の風習があり、身近に親しまれています。これは1606年(慶長11年)に徳川家康が江戸城入城の際、常緑の万年青を床の間に飾り、太平の世を願ったという故事が始まりとされています。

■葉の変化を芸として楽しむ

元禄期(1688〜1704年)になると、最初の万年青ブームが到来します。
万年青は、新葉にさまざまな変化が現れ、年を経るごとに株の特徴が際立ってきます。葉に生じる特徴的な形や斑の変化の「葉芸」を観賞する文化が生まれました。中心になったのは江戸や京都で、趣味を楽しむ余裕のある旗本や僧侶、商人たちが火付け役となりました。
享保期(1716〜36年)になると、全国から珍しい変異株が集められて栽培が行われ、品評会が各地で開催。万年青を引き立てる鉢合わせが楽しまれ、鉢にも贅が尽くされました。
やがて天保期(1830〜44年)には、趣味家たちが意にかなった逸品に何百両(数千万円)もの大金を出して賞玩するほど人気が加熱し、幕末には販売禁止令も出るほどでした。
銘品を紹介した番付も数多く出版され、江戸時代に名前のあがった種類は最低でも835品種にも及びます。今日でも江戸時代からの品種が受け継がれ、数多く残っています。
※続きはテキストでお楽しみください。
■『NHK趣味の園芸』連載「大江戸 花競べ 十二選」2019年10月号より

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