平成最後の対局で昇段 八代弥七段

撮影:河井邦彦
平成の将棋界はどのように動いてきたのか。平成の将棋界をどうやって戦ってきたのか。勝負の記憶は棋士の数だけ刻み込まれてきた。連載「平成の勝負師たち」、2019年9月号には八代弥(やしろ・わたる)七段が登場する。

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平成最後の対局で、八代は七段に昇段した。4月23日の竜王戦3組準決勝・三枚堂達也六段戦。この一番に勝った八代は2組への昇級が確定し、「六段昇段後ランキング戦連続昇級」の規定を満たして価値ある到達点をクリアしたのである。同学年のライバル同士。三枚堂六段にも同条件での昇段が懸かる大勝負だった。
「終わったあとは彼のほうから声をかけてくれて、行きつけのバーまで一緒に歩いて午前3時まで。逆の立場だったら悔しくて誘えなかったと思いますけど、彼は人がいいんです」と八代は苦笑する。
本稿の取材のため八代に会ったのは5月31日の金曜日。これ以上ない最高の形で「令和」を迎えた八代だったが、この日の気分はどん底だった。その週の月曜日、八代は竜王戦3組の決勝戦で鈴木大介九段に敗れ、本戦進出を逃していたのだ。「よくしていただいている鈴木先輩ですが、負けたショックでがっくりきました。この将棋に関しては、明らかに自分の踏み込みが不足していた。ややひるんだ心理状態を嗅覚の鋭い鈴木さんに見透かされ、勝負手を通されてズルズル局面を悪化させてしまいました」
対局終了後は飲みにいく気にもなれずまっすぐ帰ったが、ちょうど将棋会館を出るとき、ギャラリーを引き連れた鈴木九段の喜びにあふれた後ろ姿を見てしまい、その残像が痛みを伴ったという。
対局前日の日曜日、八代は静岡県下田市で行われた「黒船将棋大会」で審判長を務め、子どもたちとの多面指し指導対局に精を出した。四段になった7年ほど前から毎年参加しており、3〜4年前までは師匠の青野照市九段の手伝い役だったのだが、大任を引き継いで今日に至る。
とはいえ大事な対局直前の貴重な一日である。調整すれば「ニアミス」は回避できたに違いないが、八代は日程をずらすことはしなかった。「地元ですし、僕の原点ですから。自分がいちばんよい状態で大一番に臨むために、むしろこの仕事は力を与えてくれると思ったんです」
※続きはテキストでお楽しみください。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2019年9月号より

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