杉本昌隆八段と行方尚史八段のベテラン対決

左/杉本昌隆八段、右/行方尚史八段 撮影:河井邦彦
第69回NHK杯1回戦第11局に登場したのは杉本昌隆(すぎもと・まさたか)八段と行方尚史(なめかた・ひさし)八段。大川慎太郎さんの観戦記より、序盤の展開を紹介する。


* * *


■ベテラン対決

勝負の世界は浮き沈みが激しい。現在、最年長タイトルホルダーは35歳の渡辺明二冠だが、3年前に佐藤天彦九段が名人位に就くまでは、渡辺が最年少だったのである。昨年、羽生善治九段が竜王を失い、27年ぶりに無冠になったことを世代交代の象徴と見る向きはある。いつの時代も若者が強いのは確かだが、経験豊かなベテランの技に注目しないのは実にもったいない。
50歳の杉本は前期の順位戦でB級2組昇級を決めた。弟子の藤井聡太七段を押さえての復帰は見事で、これは史上4位の年長記録だった。45歳の行方は順位戦B級1組で奮闘しているし、今年は将棋オープン戦で準決勝に進出した。藤井七段に惜敗したが、力強い指し回しはいまだに指し盛りにあることを感じさせた。行方と親しい本局解説の藤井猛九段は「まだまだこれから、という感じで闘志満々です」と行方を評している。
両者の対戦成績は行方の9勝3敗。先手の杉本は事前インタビューで「解説が藤井九段なので、振り飛車のよい将棋を指せれば」と語っており、宣言どおりに中飛車に構えた。


■後手ペース

先手中飛車に対し、後手はすぐに角道を開けずに右銀の進出を優先させた。この銀を防波堤の役割にする意図だ。それから後手は角道を開け、左美濃に構えた。1図は3局の前例があり、行方も1局指している。
以下は盤面左辺で小競り合いが起こり、収まってから囲い合いに入った。2図からの▲9六歩では▲4九飛も有力で、これに本譜と同様に △4二角なら▲4五歩から1歩交換できる。
ただ本譜は▲9六歩を入れてから▲4九飛と回ったので△3三桂が間に合い、桂交換を余儀なくされた。これは玉が薄い先手が嫌な格好である。


■久しぶりの実戦

将棋界はスポーツの世界のようにオフシーズンはなく、1年中タイトル戦を楽しむことができる。ただ春は順位戦がないため、対局数は少なめだ。
行方は事前インタビューで、「しばらく将棋盤を見ていなくて、詰将棋ばかりだった」と語った。4月はアメリカに行き、全米将棋選手権に顔を出した。帰国してからも対局数は少なく、研究会も開催しなかったのだろう。そういえば解説の藤井九段、佐藤天彦九段、村山慈明七段と4人で長らく行っていた研究会も前年度末で解散をしている。
実戦不足が懸念されたが、行方の駒運びは順調だ。

※投了までの棋譜と自戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2019年8月号より

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