大規模修繕、災害リスク、子育て環境... 住宅ジャーナリストがタワマンを徹底検証
- 『限界のタワーマンション (集英社新書)』
- 榊 淳司
- 集英社
- 880円(税込)
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皆さんはタワーマンションと聞いて、どのようなイメージを持つでしょうか? 一流ホテルのようなラウンジ、高層階からのすばらしい眺望、充実した共用施設などに魅力を感じ、「住めるものなら住んでみたい!」と思う人も多いかもしれません。
これに対して、「分譲タワーマンションの建造は、日本人の犯している現在進行形の巨大な過ちである」と論じるのが、この道30年以上になるという住宅ジャーナリストで『限界のタワーマンション』の著者でもある榊 淳司氏。本書は、大規模修繕や災害時のリスク、子育て環境、健康影響、資産価値など多角的な視点から、住まいとしてのタワーマンション(タワマン)を徹底検証した一冊となっています。
たとえば、第二章「タワーマンション大規模修繕時代」で取り上げられているのは、タワマンの修繕工事費用やそれにまつわる諸問題について。タワマンの大規模修繕工事は上層階の外壁修繕など工法面での難易度が非常に高く、通常の板状型マンションの二倍以上の費用がかかるのだそう。建築コストが日々増大していく中、そして居住者も築年数とともに高齢化していく中で、約15年ごとに二回目、三回目と訪れる修繕費用を果たして工面することができるのかと堺氏は疑問を投げかけます。
続く第三章で挙げられているのは、タワマンが災害に弱いという点。地震大国の日本において、東日本大震災以降に計画されたタワマンのほとんどには免振や制振構造が採用されているといいます。しかし、最近注目されている「長周期地震動」(大きな地震で発生する、周期が長い揺れのこと)や「長周期パルス」(周期3秒ほどの大きな振れ幅を持つ揺れ)については現状の免振や制振構造での想定がされておらず、条件が悪いと倒壊する可能性もゼロではないのだとか。これは「タワマンは地震に強い」というこれまでの常識を覆すことになるかもしれません。また、大きな地震の際にはエレベーターの停止や電力供給の停止といった懸念もあり、もし実際にそうなった場合は、特に高層階の住人にとっては過酷な状況となりそうです。
このようにタワーマンションの問題点についてさまざまな見地から考察されている本書。しかし、子育てに対するリスクはたしかな医学的根拠がないものも見受けられますし、階層ヒエラルキーについてもすべての高層マンションに当てはまる話ではないはず。「いま、タワマンは『限界』に来ている」というのは榊氏の主張ですが、実際に本書を読んでどうとらえるか、どの程度受け入れるかは皆さん次第といえそうです。
とはいえ、「家を買う」というのは非常に大きな決断になるものだけに、情報や検討材料が多いに越したことはありません。自分にとってベストなマイホームを選ぶためにも、マンションの購入を考えている方は一読してみてはいかがでしょうか。