“グリル焼きなす”を極める

ほんのり温かみが残った状態でも、冷やしても。みそ汁やそうめんの具にも活用できます。撮影:福尾美雪
焼きなすは、夏の味。少し前までは、夏のたそがれ時にはあちらこちらでなすを焼く香ばしいにおいに鼻をくすぐられていたものです。それが少なくなったのは、センサー搭載のガスコンロやIHクッキングヒーターが普及してからのこと。そう遠くないうちに、日本の台所から、汗をかきかき、焼き網の上でなすを転がす光景が消えているかもしれません。
現在の主流は魚焼きグリルやオーブントースターでの焼きなすづくり。でも、直火(じかび)で焼いていたのと、香りや舌触りがちょっと違う。物足りない。なんだか、あの夏の味になりません。何とかならないものか、と料理研究家の杵島直美(きじま・なおみ)さんに軽~く愚痴ってしまいました(ちなみに、杵島さんはバーベキューで焼く焼きなすが大好きだそうです)。すると、さすが! 数日後には「極上グリル焼きなす、できました」との連絡が。早速、教えていただきました。
「そもそも私も焼きなすは直火で焼くものと思い込んでいたのよね」と杵島さん。改めてグリルやオーブントースターで焼いてみたそう。すると、普通にそのまま焼いただけでは、どちらも火が通るまでに水分が抜けてしまい、カサカサシワシワの残念な状態に。そこで探究心に火がつき、いろいろな方法を試してたどりついたのが、ここで紹介する、“水をくぐらせながらのグリル焼き”なのです。
この焼き方のカギは、「水にくぐらせながら」の部分。最初になすを水にくぐらせてから、グリルで焼く→取り出して水にくぐらせる、を繰り返します。焼く前と焼く途中の「水くぐらせ」は、なすに水分を補給するため、焼き上がってからの「水くぐらせ」は冷ますためのもの。すべて10秒間くらいずつ、なすの果肉中に水が入らないようにサッとくぐらせるのが肝心です。両面焼きグリルでも、片面焼きグリルでも、皮全体に焼き色がしっかりついて皮がパリパリになり、菜箸で押すと芯がない感じになったら焼き上がりです。しっかり焼いているので、皮も浮いて気持ちいいくらいにスルスルとはがせます。
姿を整えて食卓に登場した焼きなすはみずみずしく、ふっくらふくよか。ところどころに刷毛(はけ)ですっとひいたような焼き色の帯が涼しげです。口に運べば、なめらかにとろけ、味わいは甘露。香ばしい余韻もたまりません。これぞ、探していた夏の味。今年からは、グリルで極上焼きなす、焼きまくりです!
※グリル焼きなすの詳しいつくり方はテキストに掲載しています。
■『NHKきょうの料理ビギナーズ』2019年8月号より

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