ところ変われば「サンライズ」 幸せを呼ぶメロンパン

焼きたてのメロンパンは、表面に格子模様がくっきり。撮影:千葉 充
「メロンが入っていないのに、なぜこの名前?」「西日本の一部で『サンライズ』と呼ばれるのはなぜ?」などなど、名前にまつわる謎が多いメロンパン。時代が変わろうとも、名前が変わろうとも、老若男女に愛されるパンであることは変わりません。パン愛好家のひのようこさんが選ぶ、広島で創業し、「サンライズ」をつくり続ける老舗パン店を訪ねました。

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「メロンパン」は、昭和のころから全国のパン屋さんで愛されている定番のひとつ。表面のサクサクした生地が甘く、香ばしく、食べごたえも十分。時間がないときのエネルギー補給や、おやつにもぴったりです。
そんな「メロンパン」は、なぜか、西日本の一部では「サンライズ」と呼ばれています。戦後間もなく広島で創業、全国に多くの店舗を構える老舗パン屋さんも、そう呼ぶ店のひとつ。ここで総ベーカー長を務める児嶋弘志さんが入社した44年前、すでにこのパンは「サンライズ」と呼ばれていました。
当時の先輩に由来を尋ねても、「昔はだ円形だった」「パンが焼ける様子が昇る朝日に見えることから命名されたらしい」など、断片的な思い出を耳にすることはあっても、誰が、いつ名付けたのかは、定かではないそう。
甘みのあるパン生地にビスケット生地をかぶせ、格子状の切り目を入れて焼き上げます。一見シンプルな構成ですが、時間の経過とともに膨らむパン生地に、焼成すると堅く締まるビスケット生地をかぶせて焼いただけでは、表面がメリメリと割れてしまいます。
そこで肝心なのが表面の切り目の入れ方。等間隔に同じ深さにきっちりと入れることで、パン生地の膨らみに合わせて、表面の生地にも均等に割れ目が入り、全体が丸く、ふっくら焼き上がるのです。
「新人には任せられません。熟練の技が必要です」と児嶋さん。職人の技量が試されるパンでもあります。
近年、そんな「サンライズ」が活躍した出来事がありました。それは、東日本大震災直後のこと。混乱する状況の中、児嶋さんたちは、被災地支援のため福島県の相馬地方へ向かいました。
あらかじめ仕込んだ冷凍生地を、現地に持ち込んだ電気オーブンで焼き上げると、表面には格子模様がくっきり。「小さなお日様」が焼き上がります。焼きたての「サンライズ」を現地の人たちに届ける。それが「サンライズプロジェクト」でした。
戦後間もなく広島で生まれたパン屋さんが、変わらぬレシピでつくり続けたパンが、今また東北の人たちを応援。何があっても日はまた昇る。「サンライズ」は、そんな思いを伝える「希望のパン」でもあるのです。
■『NHK趣味どきっ! もっと知りたい! つくりたい! パンのある幸せ』より

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