羽生善治九段の新構想
- 左/豊島将之王位・棋聖、右/羽生善治九段 撮影:河井邦彦
第68回NHK杯戦準々決勝第3局は、豊島将之(とよしま・まさゆき)王位・棋聖と、羽生善治(はぶ・よしはる)九段の対局となった。森充弘さんの観戦記から、序盤の展開をお伝えする。
* * *
■好奇心と探究心
対局前の控え室では、羽生が司会の藤田綾女流二段に「いつから戻られたんですか?」と声をかけていた。出産・育児のための休場から4か月ぶりに復帰した藤田と羽生がNHKで会うのは今期は初めて。
「休場をするときには、事前に何か月とか届け出を出すんですか?」(羽生)
「はい、期間を」(藤田)
「そうなんですね、知らなかったです」(羽生)
羽生の好奇心と探究心を持ち続ける姿勢は、このようなところにも現れているのだと感じた。
■先手の利に対する
豊島も控え室では自然体。解説の斎藤慎太郎王座も関係者と会話を交わしていたが、対局開始時刻が近づくにつれ、静寂の時間が増えてくる。控え室に今までに感じたことがないような不思議な圧迫感が満ちてきた。
「控え室はふだん以上にピリピリとしていました。両対局者の意気込みを感じました」(斎藤)
羽生も豊島も、もし話しかければ普通にこたえてくれそうな穏やかな表情だったけれども、対局直前に発せられる二人のオーラが非常に強力だったということになる。
「プロ誰もが見たい豊島二冠の将棋、プロ誰もが見たい羽生九段の将棋。トップの二人によって、新たな定跡が作られるのではと思っています」(斎藤)
両者のこれまでの対戦成績は羽生の15勝、豊島の14勝。
2図までは、ほとんどノータイムで進んだ。角換わり腰掛け銀で先手が▲9五歩と突き越す形は、豊島が直近の対局でも指している。後手側から見ると、▲9五歩と指させて、後手から先攻しようという狙い。
「豊島さんは、角換わり腰掛け銀は先手の利を最も生かせると言っています」(斎藤)
△6五桂から後手の攻めが始まるかに見えた。しかし、羽生は▲6六銀に△4二玉と、なんと玉を数手前までいた場所に戻したのだった。
「先に桂を跳ねて手待ち、これ、すごい将棋ですね。相当準備をされた用意周到な作戦だと思います。先手の動きを待って、先手陣に隙ができたら持ち角を活用するようなことも考えられます」と斎藤が感嘆した。
豊島も「よい作戦だと思いました」と感想を述べている。
「趣旨としては自陣に隙を作らず後手でもあるので千日手を目指している作戦です」(羽生)
△4二玉と戻る手までは事前に考えられていたという。やはり、角換わり腰掛け銀は先手の利が生きるということから生まれた構想だ。
羽生は、▲5八金〜▲5六歩の動きを見て、△3一玉〜△2二玉と玉を入城させた。
すでに、前例のない展開となっている。「豊島さんの研究局面からは、はずれていると思います」(斎藤)
※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2019年4月号より
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■好奇心と探究心
対局前の控え室では、羽生が司会の藤田綾女流二段に「いつから戻られたんですか?」と声をかけていた。出産・育児のための休場から4か月ぶりに復帰した藤田と羽生がNHKで会うのは今期は初めて。
「休場をするときには、事前に何か月とか届け出を出すんですか?」(羽生)
「はい、期間を」(藤田)
「そうなんですね、知らなかったです」(羽生)
羽生の好奇心と探究心を持ち続ける姿勢は、このようなところにも現れているのだと感じた。
■先手の利に対する
豊島も控え室では自然体。解説の斎藤慎太郎王座も関係者と会話を交わしていたが、対局開始時刻が近づくにつれ、静寂の時間が増えてくる。控え室に今までに感じたことがないような不思議な圧迫感が満ちてきた。
「控え室はふだん以上にピリピリとしていました。両対局者の意気込みを感じました」(斎藤)
羽生も豊島も、もし話しかければ普通にこたえてくれそうな穏やかな表情だったけれども、対局直前に発せられる二人のオーラが非常に強力だったということになる。
「プロ誰もが見たい豊島二冠の将棋、プロ誰もが見たい羽生九段の将棋。トップの二人によって、新たな定跡が作られるのではと思っています」(斎藤)
両者のこれまでの対戦成績は羽生の15勝、豊島の14勝。
2図までは、ほとんどノータイムで進んだ。角換わり腰掛け銀で先手が▲9五歩と突き越す形は、豊島が直近の対局でも指している。後手側から見ると、▲9五歩と指させて、後手から先攻しようという狙い。
「豊島さんは、角換わり腰掛け銀は先手の利を最も生かせると言っています」(斎藤)
△6五桂から後手の攻めが始まるかに見えた。しかし、羽生は▲6六銀に△4二玉と、なんと玉を数手前までいた場所に戻したのだった。
「先に桂を跳ねて手待ち、これ、すごい将棋ですね。相当準備をされた用意周到な作戦だと思います。先手の動きを待って、先手陣に隙ができたら持ち角を活用するようなことも考えられます」と斎藤が感嘆した。
豊島も「よい作戦だと思いました」と感想を述べている。
「趣旨としては自陣に隙を作らず後手でもあるので千日手を目指している作戦です」(羽生)
△4二玉と戻る手までは事前に考えられていたという。やはり、角換わり腰掛け銀は先手の利が生きるということから生まれた構想だ。
羽生は、▲5八金〜▲5六歩の動きを見て、△3一玉〜△2二玉と玉を入城させた。
すでに、前例のない展開となっている。「豊島さんの研究局面からは、はずれていると思います」(斎藤)
※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2019年4月号より
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