NHK杯戦への思い

左/山崎隆之NHK杯、右/丸山忠久九段 撮影:河井邦彦
第68回NHK杯戦3回戦第2局は、山崎隆之(やまさき・たかゆき)NHK杯選手権者と、丸山忠久(まるやま・ただひさ)九段の対局となった。森充弘さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。



* * *


■対局前

対局前の控え室では、丸山と解説の阿部隆八段の会話がはずんでいた。
「丸山さんは昔から将棋に対する情熱がすごい。変わったのは、だいぶおしゃべりをしてくれるようになったこと」(阿部)
神秘的なイメージが先行していた丸山だが、栄養食のCM出演、インタビューなどを通して丸山の素顔が伝わるにつれ、丸山ファンがどんどん増えている。
山崎は、丸山、阿部と少し離れた席に座っていたということもあるが、無言で、気合いをためているようだった。

■心残りを振り切る

1図の先手の陣形は、山崎が後手番で用いて高勝率をあげている7四の歩を取らせる戦法に似ている。ただ本局は銀が3七に上がっているので横歩を取らせない展開。山崎は感想戦で、「控え室を出てから考えた作戦だった」と述べている。

 


昨年は、髙見泰地叡王、斎藤慎太郎王座、渡部愛女流王位の誕生、清水市代女流六段、谷口由紀女流二段がタイトル戦挑戦と、酉(とり)年生まれの棋士の活躍がめざましかったが、その先鞭(せんべん)をつけたのが酉年生まれの山崎のNHK杯戦優勝だった。
また、昨年は、酉年生まれの佐藤康光九段などが中心となって棋士の「酉年の会」が春に発足している。「酉年の会」と酉年棋士の活躍には直接的な因果関係はないけれども、2つの出来事が同じ年に起こったことが面白い。
ちなみに、山崎のNHK杯優勝祝賀会のあとの2次会で、佐藤康光九段や酉年生まれの記者と飲む機会があったが、佐藤九段が頼んだのが、山崎の銘柄のウイスキー。
このときに「酉年の会」実現に向けて話が大きく進んだ。そういえば、森信雄七段門下の山崎の兄弟子、故・村山聖九段も酉年生まれだった。
2図の局面で山崎が長考した。観戦するスタッフから「なぜ、ここでため息をつくのだろう」と、つぶやきがもれる。

「▲2四歩から主導権を取りにいくか、▲7七金としてクネクネと序盤の変わった将棋にするか、考えていました」(山崎)
山崎が選んだのは▲2四歩。駒音高く指された。
大きな駒音は、▲3四飛(3図)まで続いた。
「駒音が高かったですか。そうだとすれば、▲7七金には心が惹(ひ)かれていましたので、▲7七金への心残りを振り切る思いが駒音に現れていたのかもしれませんね」(山崎)
▲7七金も相当に魅力的な選択肢だったようだ。
「山崎さんは力戦形の序盤の組み立てがうまい。見たことのない形の最善手を見つけ出す才能がすごい」(阿部)
ところが、山崎がここで時間を使ったことが、のちのちに影響を及ぼすことになる。
※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2019年2月号より

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