【「本屋大賞2019」候補作紹介】『そして、バトンは渡された』――父3人、母2人いる女子高生の"不幸ではない"物語

そして、バトンは渡された
『そして、バトンは渡された』
瀬尾まいこ
文藝春秋
1,760円(税込)
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 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2019」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは瀬尾まいこ著『そして、バトンは渡された』です。

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 著者の瀬尾まいこさんは、家族愛をテーマにした作品が多く、家族小説の名手として知られています。本作では、子ども視点から血のつながらない親の愛情と絆が繊細に描写されており、家族とは何か、親とは何かを考えさせられる一冊です。

 主人公の森宮優子は、父親が3人、母親が2人おり、家族の形態は17年間で7回もかわっている女子高生。生みの母親は3歳のときに死別。現在の森宮の苗字も水戸、田中、泉ヶ原を経て4つ目という経歴の持ち主......。このプロフィールを見ただけで、さぞかし複雑な家庭環境で、壮絶な暮らしぶりをしてきたと読者の多くが想像することでしょう。

 ところが、当の本人は「困った。全然不幸ではないのだ」とひょうひょうとしています。現在、優子は一緒に暮らしている東大卒で一流企業に勤める父親の森宮さんに、「次に結婚するとしたら、意地悪な人としてくれないかな」と注文をつけるほど。言いかえれば、優子の幸福は、"いい人"に囲まれて育ってきた賜物でもあったのです。

 物語では、そんな優子が継母・継父にとってどんな存在なのか、彼らの会話からよく知ることができます。例えば、

「優子ちゃんの母親になって明日が二つになった。(中略)親になるって、未来が二倍以上になることだよって。明日が二つにできるなんて、すごいと思わない?」

「優子ちゃんがやってきて、自分じゃない誰かのために毎日を費やすのって、こんなに意味をもたらしてくれるものなんだって知った」(いずれも本書より)

 こうした会話をはじめ、親になることで自分より大切なものができた喜びが、物語の随所で描かれています。それぞれの血のつながりがない親たちが、優子にどう愛情を注ぐのか、そして優子は何を思い育っていくのか、その過程を知るほどに心揺さぶられること必至です。

 一方で、瀬尾作品のもう一つの特長である文学版「飯テロ」とも呼べる"おいしそうな食事描写"も健在。SNSに投稿される料理写真で、食欲がかきたてられる人も多いと思いますが、本書では森宮さんの餃子、ドライカレー、かつ丼、オムレツなど数々の得意料理が登場し、2人で楽しそうに食べるシーンが多数登場します。物語を引き立たせる重要な描写とはいえ、飯テロを警戒するなら、空腹時や深夜に読むことは控えるべきかも?

 現実世界では、実の親による虐待が後を絶たない昨今ですが、本作のように血のつながりがなくても、確かな絆を育めるのは救いであり、希望といえるのかもしれません。心温まるストーリーとおいしい食事が好きな人は、ぜひとも手にとることをおすすめします。

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