実は美人ではなかったスカーレット・オハラ

マーガレット・ミッチェルの小説『風と共に去りぬ』は、1936年に刊行されるや170万部を売り上げ、3年後に公開された映画も大ヒットしました。翻訳家の鴻巣友季子(こうのす・ゆきこ)さんは、「映画は原作に非常に忠実なところがある反面、実は原作とかけ離れた点も多々あります」と指摘します。

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主人公、スカーレット・オハラの見た目については、映画で彼女を演じた美人女優ヴィヴィアン・リーのイメージが強烈です。実際、小説ではどんな容姿だと書いてあるのか。第一巻の一行目はこう書き出されています。「スカーレット・オハラは実のところ美人ではなかったが」。驚きですね。おそらく、読者の大半はたとえこう書いてあっても、スカーレットが美人でないことなど読んだそばから忘れていると思います。
顎(あご)の線はくっきりと角張り、頤(おとがい)にかけてすっと尖(とが)った輪郭、かなり目を引く顔立ちである。瞳(ひとみ)は茶色みのない浅翠(あさみどり)で、しっかりとした黒い睫毛(まつげ)に縁どられ、心もちつりあがっていた。その瞳の上には、ゆたかな黒い眉(まゆ)が鋭角に切れあがり、マグノリアの花のような白い肌にはっとするような斜線を描いている。
顎が角張っているということは、見ようによってはエラ張りですね。そして頤(おとがい:下顎の先)が尖っている。顎は、西洋では意志の宿るところとされています。
このスカーレットの顎の描写は、シャープな感性と強い意志を思わせます。そして胸は豊かで、ウエストは「三郡きっての」極細。美脚自慢ですが、スカーレットは自分の首が短いことと、身長が低いことを気にしています。まとめてみると、背は低めで、つり目、エラ張り、首は短くふくよか、腕はむっちりしていて、バストは年齢にしては並外れて大きいが、ウエストは恐ろしく細くて、美脚。おそらく正統派美人というよりは、コンパクトグラマーで、ちょっとファニーフェイス気味の魅力的な女の子、というところだと思います。
■『NHK100分de名著 マーガレット・ミッチェル 風と共に去りぬ』より

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マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』 2019年1月 (100分 de 名著)
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