日本で初めて猫が登場した文献は?

3年目の姿 イラスト:雉○/Kiji-Maru Works
奈良時代後期、中国からやってきた猫は「唐猫(からねこ)」と呼ばれました。珍しい動物なので、まずは上流階級のペットになり、その愛らしい姿は歴代の天皇の心を癒やし、やがて『源氏物語』などの平安文学の小道具にも使われました。猫の存在が初めて文献上で確認できるのは、平安時代に編纂された『日本霊異記(にほんりょういき)】です。歴史作家で武蔵野大学政治経済研究所客員研究員の桐野作人(きりの・さくじん)さんが、日本最古の猫の記録を紐解きます。

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『日本霊異記』は日本最古の説話集で、編者は奈良・薬師寺の僧、景戒(きょうかい)、上・中・下の3巻で構成されています。成立ははっきりしませんが、弘仁(こうにん)13年(822)とする説もあります。
猫(原文での漢字表記は「狸(たぬき)」)が登場する説話は上・第三十で、慶雲(けいうん)2年(705)の秋、9月15日の出来事を記したもの。死者の転生した姿が描かれています。
豊前国宮子郡(ぶぜんのくにみやこぐん/福岡県京都〈みやこ〉郡)の次官だった膳臣広国(かしわでのおみひろくに)という人が、急死した後に地獄めぐりをしたところ、そこで、すでに亡くなっている自分の父親と再会。父親は地獄での飢えと苦しみを息子に語って聞かせました。そして、空腹を満たすために、姿を変えて息子の広国の家を訪れていたのだといいます。
1年目は大蛇(だいじゃ)、2年目は犬の姿になりましたが、どちらも家に入れてもらえませんでした。そして3年目に猫になったところ、ようやく家に入れてもらえ、3年間の空腹を満たすことができたというのです。当時の猫は、貴重な生き物で珍重されていましたが、大蛇や犬と同じように、人が転生する対象として扱われていたことがわかります。
猫が死者の転生した姿となり、死者自らがそのことを説明するという設定は、『更級(さらしな)日記』(康平〈こうへい〉3年(1060)頃成立)と共通する部分が見られます。
■『NHK趣味どきっ!不思議な猫世界』より

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