エッセイの名手・酒井若菜 不倫がテーマの処女作がファン待望の復刊

こぼれる(キノブックス文庫)
『こぼれる(キノブックス文庫)』
酒井若菜
キノブックス
670円(税込)
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 女優・酒井若菜さん。かつてトップグラビアアイドルとして君臨し、宮藤官九郎さん脚本のドラマ『木更津キャッツアイ』(TBS系)や、松尾スズキさん監督の映画『恋の門』以降は演技の道で頭角を現し、いまや演技派としてすっかりおなじみです。最近ではテレビドラマ『透明なゆりかご』(NHK)で主人公の母親役を熱演していたのをご記憶の方も多いのではないでしょうか?

 エッセイストとしての評価も高い酒井さんは、自身のブログ「ネオン堂」の執筆はもとより、最新作『うたかたのエッセイ集』(キノブックス刊)をはじめ、『心がおぼつかない夜に』(青志社刊)など、"書き手"としても際立った才能を見せています。

 2016年刊行の『酒井若菜と8人の男たち』(キノブックス刊)では、男性芸能人との対談と、対談相手それぞれに向けたエッセイを収録。同書では、10代の頃から自己免疫疾患の難病・膠原病(こうげんびょう)を患っていることをカミングアウトしたことでもメディアの耳目を集めました。

 本書『こぼれる』は、そんな酒井さんが2008年に初めて描いた小説作品の復刊。物語は、人間同士の関係性を立体パズルのルービックキューブになぞらえて、こんな書き出しで始まります。

 「本人も気づかなかったある一面が、他人には見えることだってあるのだ。その場合、極端に言えば、自分が誰かにとっての『加害者』になっている可能性もないとは言えない。物でも人でも、角度を変えて見れば全く違う存在になるのに。その時に『加害者』という一面が自分の中に突然現れたら」(本書より)

 本書の22歳の主人公・雫は、器用な生き方ができない憎めない女性。やがて妻子ある男性と恋に落ち、いわゆる不倫状態に陥るのですが...。連作短編集というスタイルで、登場人物4人―--雫・雫の不倫相手・不倫相手の妻・雫に片思いする男性―--それぞれの視点で紡がれる物語は、さながらルービックキューブのように多面的な構成を取っています。

 人との関係性、こと恋愛関係においては誰しもが加害者であると同時に被害者にもなり得るという、人間の愚かさと切なさを端然と描く本書は、書き手・酒井さんの魅力を存分に味わわせてくれる、渾身の1冊と言えるでしょう。

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