深浦康市九段 記録係の思い出

撮影:藤田浩司
講座「深浦康市の振り飛車なんてこわくない」の講師を務める深浦康市(ふかうら・こういち)九段。奨励会時代に数多く務めた記録係にまつわる思い出を語ってもらいました。

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■勝負とは何か 記録係で痛感した修業時代の反省

12歳の冬、奨励会に6級で入会してプロを目指す生活になりました。すでに地元の長崎を出て、埼玉県の親戚のお宅に居候しながら中学校に通っていたのです。
実家からは生活費を仕送りしてもらっていましたが、移動費や将棋の書籍代を稼ぐため記録係を積極的に務めました。プロの公式戦ですので、またとない勉強の時間でもあります。
記録係を始めて間もないころ、たばこを吸われる対局者同士の記録を担当することに。休憩に入り、灰皿の中の吸い殻を捨てようと思いましたが、片方の先生はまだ余裕がありましたので、そのままにしておきました。対局が再開されると、その先生は席に戻ってくるなり「あちらの灰皿はきれいにして、こちらはそのままじゃないか。勝負を争ってるのだから平等でなくてはいかん」とどなられてしまったのです。
反省するとともに、勝負とは何かを教えられる日常でした。
 

■勇気を振り絞った感想戦での指摘 自信を深めた思い出

記録係は数多くとりました。強く印象に残っているのは大山先生、中原(誠十六世名人)先生、米長(邦雄永世棋聖)先生、加藤(一二三九段)先生です。アマチュア時代から棋譜をたくさん並べた憧れの先生方の対局を間近で見られる機会でもあり、強さを肌で感じることができるまたとない機会でした。大山先生、中原先生は本当に自然体で悠然としており、米長先生、加藤先生は気迫を全面に出してきます。
私が記録係を務めた対局で、米長先生が難解な終盤戦を制しました。ただ途中で相手の先生が詰ますチャンスがあったと思い、感想戦でその局面にさしかかったときに勇気を振り絞って発言したのです。実際、私の指摘どおり詰みが確認され、逆転だったという結論に。
その時は特に何も言われませんでしたが、後日、米長先生から研究会に来ないか、というありがたい声かけがあったのです。自信を深めた思い出になりました。
■『NHK将棋講座』2018年12月号より

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