佐々木勇気六段が待ち望んでいた谷川浩司九段との初手合い

左/谷川浩司九段、右/佐々木勇気六段 撮影:河井邦彦
第68回NHK杯戦1回戦 第17局は、谷川浩司(たにがわ・こうじ)九段と佐々木勇気(ささき・ゆうき)六段の対局だった。小暮克洋さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。



* * *


■刺激的な激励

今年2月、第11回朝日杯将棋オープン戦で藤井聡太五段(当時)が優勝したとき、谷川はこんなコメントを寄せた。「名人と竜王を破っての優勝は見事ですが、20代・30代の棋士に対しては『君たち、悔しくないのか』と言いたい気持ちもあります」
史上最年少の21歳で名人位に就いた大棋士の言葉だけに重みがあるが、15歳の中学生棋士に全棋士参加棋戦で頂点に立たれた若手棋士たちが悔しくなかったはずはあるまい。対局前、藤田綾女流二段に抱負を問われた佐々木は、では何と答えたか―。



■殊勝な思い

自らの反骨心を佐々木がどんな言葉で語るのかと思ったら、あまりに殊勝だったので驚いた。
「勝ち方が芸術的な谷川先生に教われるこの日を待ち望んでいました。物おじせずに自分らしい将棋が指せたら」――。激闘譜と名高い『谷川VS羽生100番勝負』(日本将棋連盟刊) を、佐々木は小学生時代から何度も並べたという。初手合いの本局には新しい和服で臨んだ。
後日の取材に佐々木は「谷川先生のあのセリフを思い出していれば、悔しくない将棋を指したいと言えたのに」と笑った。



■予想外の展開

変化球気味の△1四歩(1図)で定跡手順を離れつつも角換わり腰掛け銀に誘導しようとした佐々木だったが、谷川が早繰り銀に出たので思惑が外れた。
3図で▲3五歩は、△同歩▲同銀△8六歩▲同歩に△8五歩の継ぎ歩攻めがあってうまくいかない。▲同歩は△同飛で十字飛車。谷川は▲7九玉と8九の桂にヒモをつけ、玉形を安定させてから▲3五歩を実行した。
▲3四歩△同銀右に、▲3五歩は△4三銀でこれ以上の突進は望めない。控えて打つ▲3六歩(4図)がこの際の好手段だ。

※投了までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK将棋講座』2018年10月号より

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