地獄の淵を見てきた杉本和陽四段、初のNHK杯戦

左/杉本和陽四段、右/斎藤慎太郎七段 撮影:河井邦彦
第68回 NHK杯戦 1回戦 第8局は、杉本和陽(すぎもと・かずお)四段と斎藤慎太郎(さいとう・しんたろう)七段という同世代の対局となった。昨年4月に悲願の四段昇段を果たした杉本四段は、初のNHK杯戦で本戦出場を決めた。椎名龍一さんの観戦記から、序盤の展開を紹介する。



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■どことなく似ている

杉本26歳、斎藤25歳。
同世代で、どちらも高身長で痩身(そうしん)。どことなく雰囲気が似ている両者の対戦だ。
対局前のインタビューで杉本は「斎藤さんは若手棋士の代表格で、とてもきれいな将棋を指されるという印象です。小さなころから観(み)ていたNHK杯で将棋を指せることがうれしい」。
対する斎藤は「杉本さんは序盤から積極的にリードを奪いにくるという印象があり警戒しています。中終盤のねじり合いでうまく指して勝利を目指したいと思っています」と話した。


■地獄の淵(ふち)からの生還

年齢も奨励会入りも近い両者だが、18歳で四段昇段を果たした斎藤とは対照的に、杉本は年齢制限ギリギリの25歳に追い込まれるまで三段リーグを戦うという地獄の淵を見てきた棋士だ。
鬼才と呼ばれた故・米長邦雄永世棋聖が「どうしても最後に弟子に取りたい」とほれ込んだのが杉本だったというから、その才能は折り紙つき。
杉本が奨励会に入会する前から、米長門下の有段者である兄弟子たちと互角以上に戦っていたエピソードを兄弟子でもある中川大輔八段が語っている。
小学生名人という勲章を胸に奨励会に入会し、17歳で三段へと駆け上がった杉本だったが、そこから四段に上がるのにリーグ17期・約9年という長い時間を要した。昇段争いに加わることもあったが、星一つの差に泣かされ、その間に多くの後輩にも抜かされた。本局の斎藤もその1人だ。杉本が三段リーグでもがく間に、順風満帆に順位戦でも昇級を重ねてB級1組七段へと駆け上がった斎藤は、杉本にとってまぶしすぎる存在だったに違いない。「斎藤さんとは奨励会で3局戦って全部負けています」と杉本。本局は借りを返す絶好の舞台と機会である。
中段で銀がつばぜり合いを演じ、杉本がペースを握る。2図から4分の考慮時間を使う長考で▲4六歩。▲7七角〜▲6六角がうまい手作りで、以下も杉本が小技でポイントを稼ぐ。


※投了までの棋譜と自戦記はテキストに掲載しています。
■『NHK将棋講座』2018年7月号より

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