海外流出が広めた日本の美

国宝級の美術品が海外のオークションに出品されることを「流出の危機」として異議を唱える人がいる。日本美術を主な領域とするライター、エディターの橋本麻里 (はしもと・まり)さんは、「流出」ではなく別の視点から見ることを勧める。

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日本人は不思議だ。村上隆(たかし)や草間彌生(くさま・やよい)の作品が「海外オークションで、日本人作品として過去最高額で落札」と聞けば「よくやった!」と日の丸の旗を振り、同じオークションに「国宝級」の運慶作の仏像が出品されると「流出の危機」といって慌てふためくのだから。
2008年、運慶作と推定される大日如来像がクリスティーズのオークションに出品されることが発表されるや、国内メディアは一斉に「運慶、米で競売へ」と報じ、「流出許すまじ」で盛り上がった。文化財保護法はもちろん、作品の海外流出に一定の歯止めをかける機能を担っている。だが同時に、《吉備大臣入唐絵巻(きびだいじんにっとうえまき)》ほか多数の日本美術を所蔵するボストン美術館やワシントンのフリーア美術館、伊藤若冲(いとう・じゃくちゅう)など江戸絵画のコレクターとして知られるジョー・プライス氏らの活動が、海外の人々に日本美術のすばらしさを伝える「外交官」役を果たしてきたのも事実。
「海外流出」が必ずしもマイナスの側面だけではないことは知っておいていいはずだ。
■『NHK趣味どきっ! 国宝に会いに行く 橋本麻里と旅する日本美術ガイド アンコール放送』より

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