大規模プロジェクトは0.5%しか成功しない!? 企画が失敗する普遍的な要因とは
- 『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』
- ベント・フリウビヤ,ダン・ガードナー,櫻井祐子
- サンマーク出版
- 1,980円(税込)
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「莫大な資金をつぎ込んだのに失敗してしまったプロジェクト」と聞いて、みなさんはどんなものを思い浮かべるでしょうか? 国家レベルのものから勤めている会社の企画まで、おそらく「過去にこんな失敗プロジェクトがあったな~」と容易に思い浮かべることができるかと思います。それもそのはず。たいていの大きなプロジェクトは最初の予算を大幅に超えてしまったり、1年で終わるはずが数年かかったり、そういうことが往々にしてあるからです。
では、これは仕方のないことなのでしょうか? いいえ、これに異を唱え、「プロジェクトの失敗と成功をもたらす普遍的な要因があるはずだ」と研究したのが、書籍『BIG THINGS どデカいことを成し遂げたヤツらはなにをしたのか?』の著者の一人であるベント・フリウビヤさんです。彼は、経済地理学者、オックスフォード大学第一BT教授・学科長、コペンハーゲンIT大学ヴィルム・カン・ラスムセン教授・学科長であり、これまで100件以上のメガプロジェクトのコンサルティングを行い、各国政府やフォーチュン500企業のアドバイザーを務め、デンマーク女王からナイトの称号を授けられた人物です。
彼が初めて担当した大型プロジェクトはネパールに学校を建設することでした。プロジェクトの詳しい内容は同書で確認してほしいのですが、計画はなんと8年前倒しで予算内に完了。彼は「たんにやると言ったことをやり遂げたに過ぎなかった」と当時は思っていたと振り返ります。
しかしその後、大型プロジェクトが成功または失敗する原因を研究するようになり、ネパールでのプロジェクトが普通ではなく、大規模なプロジェクトを進めるとき、"予算内、期限内、とてつもない便益"という3拍子がそろった成功例は0.5%しかないことを知るのです。そして「超大型プロジェクトの成否を分ける普遍的な要因」を見つけます。
その要因は2つあり、1つは「人間の心理メカニズム」、もう1つは「権力」だといいます。この2つが作用することで、プロジェクトが承認されて工事が始まっても、たくさんの問題が噴出し、進捗が遅れ、ズルズルと長引くことになるのです。彼はこれを「すばやく考え、ゆっくり動く」と名付け、これが失敗するプロジェクトの共通の特徴だといいます。
「一方、成功するプロジェクトは逆のパターンをたどり、すばやくゴールに到達する。ネパールの学校のプロジェクトもそうだ(中略)アップルは初代iPodの開発担当者を2001年1月末に雇い、同年11月に最初のiPodを顧客に出荷した。アマゾンの大成功している会員制無料配送プロジェクト『アマゾンプライム』は、2004年10月時点では漠然とした構想だったが、2005年2月に正式発表された」(同書より)
プロジェクトを成功させるためには、失敗パターン「すばやく考え、ゆっくり動く」の逆である「ゆっくり考え、すばやく動く」が重要。ゆっくり考える必要があるのは、「計画フェーズは安全な港で、実行フェーズは荒波での航海」だからだと記します。
「伝説的映画スタジオのピクサーでは、『監督は映画の開発フェーズに何年もかけることを許されている』と、共同創業者のエド・キャットムルは言う」(同書より)
計画フェーズにもコストはかかるけれど、この段階であれば少額で済む上に変更しやすく、緻密な計画を立てることに集中していれば、あとは一気に進むだけということです。
なんだか簡単なことのように思えますし、「たいていの大型プロジェクトはすでにそうしているのでは?」と思ってしまいます。しかし実際には「早く実行したい」という焦りや、実行することで満足・安心感を得てしまう、未来を楽観的に見積もってしまうなど、心理的働きが作用して細部まで計画を練り上げる前に実行してしまうのだそうです。
これは大型プロジェクトに限らず、もしかしたら皆さんの日々の計画の中にも思い当たる節があるかもしれません。ただ、日々の小さな計画であれば多少のズレは許容範囲ですが、大型プロジェクトとなるとそうもいきませんね。
同書では、1章と2章で「なぜ大型プロジェクトのリーダーは、すばやく考え、ゆっくり動いてしまうのか」を解説。3章では失敗の沼に陥らずにプロジェクトを始動させる方法を紹介し、4章では映画スタジオ・ピクサーが実行する手法「ピクサー・プランニング」の有効性を説きます。さらに5章で「経験」の重要性、6章で「あてになる予測」の立て方、7章で「すばやく考え、ゆっくり動く」が成功した例の検証、8章で「ゆっくり考え、すばやく動く」の成功例を見ていきます。そして9章では各章のテーマを踏まえて「モジュール性」というコンセプトを紹介し、終章に続きます。
同書は他にもビジネスの参考になるポイントがたくさん記されています。大型プロジェクトに携わる人はもちろん、仕事に役立つ知識を身に着けたい人や知的好奇心を満たしたい人は、手に取ってみてはいかがでしょうか。
[文・春夏冬つかさ]