【「本屋大賞2024」候補作紹介】『放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件』――児童書で初ノミネート! 学校で起きた不思議な事件の真相は......?
- 『放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件(2024年本屋大賞ノミネート)』
- 知念実希人,Gurin.
- ライツ社
- 1,210円(税込)
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BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2024」ノミネート全10作の紹介。今回取り上げるのは、知念実希人(ちねん・みきと)著『放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件』です。
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これまで『ムゲンのi』や『硝子の塔の殺人』などの作品が本屋大賞にノミネートされてきた知念実希人氏。けれど『放課後ミステリクラブ 1金魚の泳ぐプール事件』は、著者的にも本屋大賞的にも画期的な存在だと言えるかもしれません。なぜなら同書は知念氏が初めて子どもに向けて書いたミステリ小説であり、初めて本屋大賞にノミネートされた児童書だからです。
物語に登場するのは、4年1組の辻堂天馬(つじどう・てんま)・柚木 陸(ゆずき・りく)・神山美鈴(かみやま・みすず)の3人。美鈴の「みす」、天馬の「て」、陸の「り」をとって、彼らはクラスメートから「ミステリトリオ」と呼ばれています。ある日、3人が所属するミステリクラブにクラス担任の真理子先生から「事件を解決してほしい」と依頼が寄せられます。夜の学校のプールに大量の金魚が放たれ、おかげで翌日予定されていたプールの授業を中止せざるを得ない事態になったというのです。いったい誰が何の目的でこのような事件を起こしたのか......? そこには意外な真実が隠されていました。
なんといっても同書で光るのが、ミステリトリオの個性あふれるキャラクター。スポーツ万能でいつも元気な美鈴、合気道が得意で同書の語り手でもある陸は、もし自分が小学生なら友だちになりたくなるような親近感があります。そして探偵役となる天馬は、去年イギリスから転校してきたという男の子。茶色いチェックのコートと帽子を身につけるなど小さなシャーロック・ホームズさながらに、持ち前の推理力で事件を解決へと導きます。
終盤には天馬から「これは読者への挑戦状である。キミたちの良き推理をいのる」という呼びかけも出てきます。この"読者への挑戦状"はミステリでお決まりの手法ですが、同書で初めて本格ミステリと出会った子どもの読者なら「探偵からの挑戦を受けて立つ」という心躍る体験を楽しめることでしょう。
著者の知念氏によると、「大人のミステリ小説とまったく同じ手法で書きました」とのこと。その言葉通り、大人である私が読んでも最後まで犯人や動機を見抜けず、真相にはあっと驚かされました。同書は子ども向けながら、意外な犯人やトリックの妙、伏線回収の心地よさといったミステリの醍醐味をしっかりと楽しめる一冊になっています。殺人やグロテスクなシーンがない、漢字にはすべてフリガナがつけられているといった配慮もあり、親からも安心して子どもに薦められることでしょう。すでに第2作・3作も出ている「放課後ミステリクラブ」シリーズ。まずは第1作となる同書でその魅力を感じ取ってみてください。
[文・鷺ノ宮やよい]